第9話:路地裏の視線と、悪意のフィードバック
ギルドを出たカイトの背中には、依然として粘つくような視線が刺さっていた。
特にBランクパーティ『轟雷の牙』の面々から放たれる視線は、単なる好奇心を超えて「獲物」を定めるような鋭さを含んでいる。
だが、カイトはそれらをむしろ歓迎していた。
彼らが自分を疑い、妬み、悪意を抱くほど、カイトの右拳には目に見えない「弾丸」が充填されていくからだ。
「……さて。人気のない方へ誘い込んでやるか」
カイトは宿へ戻るふりをして、意図的に街の外縁部、人通りの途絶えた廃倉庫街へと足を向けた。
足音を消し、「風走」を微弱に展開して気配を殺す。
背後の気配も、カイトの動きに合わせて慎重に距離を詰めてくる。
一人ではない。二、いや三人はいる。
【検知:複数の対象からの「監視」および「敵意」:+45 evil】
【リソース:悪意エネルギーが「創造」の適正値に達しました】
カイトは立ち止まり、暗がりの広場で振り返った。
「おい。いつまで隠れてるんだ。……挨拶くらい、顔を見てやったらどうだ?」
静寂の後、崩れたレンガ壁の影から三人の冒険者が現れた。
シルヴィア本人ではないが、その装備からして『轟雷の牙』に連なる下っ端、あるいは彼らに雇われたならず者だろう。
一人は細身の短剣使い、残りの二人は手斧を構えた屈強な男たちだ。
「……気づいてたか。だが、ここなら叫んでも誰も来ねえぞ」
「お前のそのジャージ、魔導具だろ? 新人が持つには過ぎた代物だ。壊される前に、俺たちが預かってやるよ」
彼らから放たれるのは、露骨な「強欲」と、弱者(と彼らが思っている存在)を蹂躙しようとする「加害意識」。
【検知:対象からの「強欲」「蔑視」:+80 evil】
「預かる、ね。……残念だが、このジャージは俺の『身体の一部』みたいなもんでな。他人が触ると、ちょっとした『対価』が必要になるんだ」
カイトは不敵に笑うと、溜まっていた悪意ポイントを一気に消費した。
まだ習得ポイントには届かない機能を、彼らの悪意を燃料にして「一時的に」具現化する。
【創造:悪意 125 pt を消費――一時的な魔力伝導回路を展開】
ジャージの袖に銀色のラインが走り、カイトの手首に高い魔力が集中する。
カイトが指先を鳴らすと、空気が爆ぜるような鋭い音が鳴った。
「なっ……なんだ、その光は!?」
「等価交換のルールだ。……あんたたちがくれた『悪意』の分だけ、俺の魔法は速くなる」
「身体強化」と「風走」を同時起動。
カイトの姿が、夜の闇に溶けるようにかき消えた。
「速――っ!?」
短剣使いが反応するよりも速く、カイトは一瞬で懐に飛び込み、その手首を掴んだ。
回路によって加速された魔力が、掌から直接、相手の急所を叩く。
「痛みの対価、受け取れよ」
カイトの冷徹な一言と共に、広場に短い悲鳴が響き渡った。
ジャージ姿の男の無双は、街の暗部でも静かに、確実に加速し始めていた。
【現在蓄積リソース:45 pt(感謝) / 0 pt(悪意:消費済み)】
【所持金:銀貨 17枚】




