第10話:略奪の代償と、冷徹な回収
廃倉庫街の静寂を、骨が軋む嫌な音と短い悲鳴が切り裂いた。
カイトが掴んだ短剣使いの男は、回路を通じて流し込まれた衝撃に白目を剥き、そのまま地面に崩れ落ちた。
意識はあるようだが、あまりの激痛に身体が硬直して動けないらしい。
「……ひ、ひぃっ!?」
手斧を構えていた残りの二人が、数歩後ずさる。
彼らにとってカイトは、ただの「運が良いだけの新人」だったはずだ。
それが一瞬で仲間を無力化し、闇に紛れて死神のように立っている。
【検知:対象からの「根源的な恐怖」:+120 evil】
「おい。預かるんじゃなかったのか? 俺のジャージ」
カイトは、袖に走る銀の回路を冷たく発光させながら、一歩、また一歩と歩み寄る。
男たちは震える手で斧を振り回すが、その動作は「風走」と「身体強化」を併用するカイトにとっては止まっているも同然だった。
「くるな! くるんじゃねえ! 俺たちは『轟雷の牙』の息がかかった……っ!」
「そんなことは聞いてない。俺が興味あるのは……あんたたちが持ってる『資源』だけだ」
カイトは斧の軌道を最小限の動きで回避し、二人の懐に潜り込んだ。
掌をそれぞれの胸元に当て、凝縮された衝撃を叩き込む。
「――強制執行」
ドォン! という重い衝撃と共に、大男二人が背後のレンガ壁まで吹き飛んだ。
壁に背中を打ち付け、ズルズルと力なく座り込む。
カイトは、意識を失った三人を見下ろし、その懐を躊躇なく漁り始めた。
「等価交換」はこの世の絶対の理だ。
彼らがカイトの時間を奪い、危害を加えようとした以上、相応の対価を支払わせるのはカイトにとって当然の権利だった。
【検知:金品を回収――銀貨3枚、銅貨50枚を獲得】
「……命を取らないだけ、感謝してほしいもんだな」
カイトは手に入れた銀貨をポケットに放り込んだ。
すると、一時的に展開していたジャージの「魔力伝導回路」が、粒子となって霧散していく。
悪意ポイントという「燃料」が底をついた合図だ。
「ふぅ……。やっぱり一時的な創造は燃費が悪いな。恒久的に回路を刻むには、もっとまとまったポイントを貯めないといけないか」
カイトは、自らの身体に残る熱い感覚を馴染ませながら、倉庫街を後にした。
宿に戻る道すがら、カイトは現在のリソースを確認する。
村で得た報酬と、今しがた「徴収」した分。
そして、マッド・センチピード討伐以来、確実に街での知名度が上がり、カイトを遠巻きに見る住人たちからも微弱なポイントが流れ込み続けている。
【現在蓄積リソース:180 pt(感謝) / 0 pt(悪意)】
【所持金:銀貨 20枚】
「……よし。ようやく、金とポイントのバランスが整ってきた」
カイトは、紺色のジャージの襟元を正した。
汚れ一つないその服は、夜の闇の中でも不気味なほど鮮やかに、男の野望を包み込んでいた。
「(次は、そろそろ『武器』の概念を買い取るか。それとも……)」
ジャージ姿の男の足取りは、かつてないほど軽快だった。
この世界のルールを、彼は完全に理解し始めていた。
【現在蓄積リソース:180 pt(感謝) / 0 pt(悪意)】
【所持金:銀貨 20枚】




