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『等価交換の創造無双 〜ジャージ姿の俺、悪意を燃料に最強兵器を創り出す〜』  作者: beck2026
第2章:管理者の実地研修(フィールドワーク)

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第88話:不本意な生存と「管理者の屈辱」

西の森、中層域。

カイトの呼吸は、既に喘鳴に近いものへと変わっていた。

かつての自分なら一瞥するだけで消し去れたはずのアイス・ウルフ。その数匹に追い詰められ、泥に塗れている現状は、管理者としての彼にとって何よりも耐えがたい屈辱だった。

「……カイトさん。右から二匹、後ろから一匹……。ごめんなさい、私の索敵が遅れました……」

リアの声も、疲労と痛みで震えている。

彼女の肩には深い爪跡が刻まれ、そこから流れる鮮血がメイド服を赤く染めていた。

魔法という「システム」の恩恵を最小限に抑え、素の身体能力だけで戦おうとした結果が、この惨状だった。

「……黙れ、リア。お前のせいじゃない。……俺が、この『レベル3』という身体の出力限界を見誤った。……完全な、計算ミスだ」

カイトは震える手で、泥に汚れた魔導銃『等価の天秤』を握りしめた。

指先の感覚は既に麻痺し、魔力は底を突きかけている。

ここで無理に魔法を使えば、意識を保つことすら危うい。

「……だが、ここで終わるわけにはいかない。……修復魔法リペア。……銃を……いや、俺の腕の骨を、あと一分だけ保たせろ……ッ!」

【魔法発動:事象復元リペア ―― 枯渇寸前の魔力を無理やり搾り出す】

カイトは喉の奥からせり上がる血の味を飲み込んだ。

自分の身体を魔法で補強し、無理やり戦わせるのは、壊れかけた機械を無理やり高回転で回すようなものだ。

筋肉が悲鳴を上げ、視界の端が真っ赤に染まる。

「ガァァッ!!」

一匹の狼が、弱り切ったカイトの隙を逃さず、喉笛を食いちぎらんと跳躍した。

カイトはそれを銃身で受け止めるが、激痛が走り、腕の骨がきしむ音が脳内に響く。

以前なら羽毛のように軽くあしらえたはずの攻撃が、今は巨岩をぶつけられたような衝撃だった。

「……っ、ふざけるな……こんな、ただの獣相手に……!」

カイトは無様に地面を転がりながら、至近距離から銃弾を放った。

狙いが逸れ、狼の足を砕くにとどまる。

冷徹であるはずの管理者の射撃が、痛みと焦りでこれほどまでに鈍るのかと、自分自身に吐き気がした。

「……カイトさん!」

リアが叫び、傷ついた身体で狼の群れの中に飛び込んだ。

彼女の蹴りが一匹を吹き飛ばしたが、その代償に別の狼の牙が彼女の脚に突き刺さる。

「……リアッ! ……クソッ、重力演算グラビティ……ッ!」

【魔法発動:重力演算グラビティ ―― 魔力、限界を超えた運用】

カイトは残された全ての意志を注ぎ込み、自分たちの周囲に重力の枷を嵌めた。

ほんの数秒、狼たちの動きが止まったその隙に、二人は互いを支え合い、泥を啜るような無様な戦いで、なんとか残りの狼を沈黙させた。

最後の一匹が動かなくなった時、カイトはその場に膝から崩れ落ちた。

全身が泥と返り血で汚れ、ジャージの洗浄機能すら追いつかない。

「死ぬかと思った」などという感想は、今の彼には贅沢すぎた。

ただ、管理能力を失い、死の淵まで追い詰められたという「事実」が、重くのしかかっていた。

【経験値を蓄積 ―― 身体の器がわずかに拡張されました】

【カイト:レベル 3 → 4】

【リア:レベル 3 → 4】

「……ハッ、……たったこれだけの成長に、命を懸けるハメになるとはな。……滑稽すぎて、笑いも出ないよ……」

カイトは震える指で、ジャージの裾に触れた。

魔力はもう、一滴も残っていない。

もし今、もう一匹現れれば、そこが彼らの墓場になる。

「……リア、生きているか。……返事をしろ。……回復魔法ヒールを……」

「……ダメ、です……。カイトさん、それは帰りのために……。私は、……まだ、動けますから……」

リアの声は今にも消え入りそうだった。

二人は泥まみれのまま、互いの肩を貸して這うようにして、大きな木陰へと逃げ込んだ。

これが「実地研修」の現実だった。

「……食事を、出す。……食え。……生き残るための、燃料だ」

ジャージから現れた味のしない塊を、二人は無言で口に押し込んだ。

かつては「味気ない」と切り捨てていたその食事が、今は自分の命を引き止める唯一の鎖のように感じられた。

「……不味いな。……でも、この不味さを感じられるのは、まだ死んでいない証拠だ」

「……はい。……少しだけ、身体が温かくなってきました。……でも、……本当、に……苦しかった……」

カイトは木に背を預け、感覚のない自分の手を見つめた。

全能を奪われ、泥にまみれ、理不尽な暴力に晒されて初めて、彼は「命を管理する」ということの本当の意味に、ほんの少しだけ触れた気がした。

「……午後は、もう動かない。……日が沈むまでここに潜み、闇に乗じて街へ帰る。……ギルドには、このボロボロの姿を見せてやる。……『死に物狂いで、なんとか三十匹倒して逃げ帰った』……それが、今の俺たちの精一杯の実績だ」

「……はい。……自慢できるようなことじゃないけれど。……それが、私たちが今日、ここで生きた証拠ですものね」

二人の帰還路は、逃亡者のように惨めなものになるだろう。

だが、その屈辱に塗れた一歩こそが、全能だった頃には決して得られなかった「本物の生」の記録として、二人の身体に深く刻まれていった。

(第88話 完)

■ カイトとリアの今の状態(第88話時点)

【カイト:レベル 4】

• 状態: 魔力は完全に枯渇。右腕が上がらず、全身が打撲と泥にまみれている。

• 心境: 管理ミスによる深刻な屈辱。だが、生存への執着はより強まっている。

【リア:レベル 4】

• 状態: 肩と脚に深い裂傷。出血は止まっているが、歩くのがやっと。

• 心境: カイトを守りきれなかった悔しさと、死の淵を越えたことへの実感。

【持ち物】

• お金: 銀貨 7枚

• ごはん: もう今日はおしまい。

【これからの予定】

夜陰に乗じて、息を潜めるように街のギルドへ這い帰ること。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

もしこの「ジャージ管理者の等価交換ファンタジー」を面白いと思ってくださったら、ぜひ評価の「星」やブックマークで応援していただけると、カイトの魔力と作者のモチベーションがリペアされます!

よろしくお願いいたします。

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