第72話:資産の仕分け(ソーティング)
「……カイトさん。重力障壁の内側、バルディア軍二千名のバイタルデータ、および精神状態の同期を完了しました。……全体の98%が『戦意喪失』、残りの2%は『過呼吸によるパニック状態』です。……もはや、彼らは軍隊としての機能を完全に喪失しています」
リアの淡々とした報告が、静まり返った街道に響く。
カイトは、三倍の重力によって泥濘にめり込んだ二千人の人間たちを、まるで動かなくなった機械の山を見るような目で見つめていた。
カイトが纏う「タクティカル・ジャージ」は、砂塵の舞うこの場所にあっても、微かな光沢を放っている。「常時自動洗浄」機能により、戦場の生臭い空気や泥、飛び散った脂ですらも彼の数ミリ手前で分解され、カイトの周囲だけが清潔な執務室のような静謐さを保っていた。
「……当然の帰結だ。……暴力という旧時代の投資は、物理法則という絶対的な壁の前では減価償却すらされない損失に過ぎない」
カイトは一歩、泥の中に踏み出した。彼が歩く場所だけは、ジャージの「複合防御装換」が微かに作動し、泥を弾き飛ばして乾燥した地面へとリペア(修復)されていく。
「……カイトさん。……帝国騎士団、第二大隊の隊長が面会を求めています。……『武人の名誉にかけて、一騎打ちでの決着を』……とのことですが」
リアの報告に、カイトは心底興味なさそうに視線を外した。
「……却下だ。……名誉などという実体のない変数に、私の魔力を使うのはコストの無駄だ。……バルカ、シルヴィア」
カイトの呼びかけに、軍事担当の老傭兵バルカと、屈辱に唇を噛むシルヴィアが前に出る。
「……あの男の『名誉』という名のエラーをデバッグしろ。……完膚なきまでに叩きのめし、絶望を分からせろ。……その後は、私の命令を忠実に実行する『端末』としてリペアしてやれ」
「……へっ、お安い御用だ。……若造に礼儀ってやつを教えてやるよ」
バルカが愛用の斧を肩に担ぎ、カイトが一時的に重力設定を解除したエリアへと歩み出る。
シルヴィアもまた、カイトへの憎悪を抑え込みながら、その矛先を敵の隊長へと向けた。
カイトは戦いの行方を一度も見ることなく、ジャージのポケットから「緊急食料生成」で作り出した高濃度レーションを取り出し、無機質な動作で口に運んだ。
「……ロック。……テオ。……戦場に転がっている鉄塊の検分を始めろ。……一本の矢、一振りの剣も、遺棄することを許容しない」
「……へっ、了解だカイトさん! ……テオ、見ろ。帝国特有の熱処理が施された炭素鋼だ。……こいつは街の地下に引く『自動洗浄トイレ』の配管資材に最高だぜ!」
「……はい、師匠! ……不純物の除去計算、開始します!」
ロックとテオが、巨大な攻城兵器を「資材」として解体し始める。
背後では、バルカとシルヴィアによる「教育」が行われていた。
かつて勇猛を誇った大隊長が、重力と暴力の前に名誉を粉砕され、悲鳴を上げる。
その絶望が、システムに莫大なリソースとして還元されていく。
【検知:第二大隊長のプライド崩壊と服従心:+80,000 evil】
数分後。
血まみれで膝を突いた大隊長が、虚ろな瞳でカイトを見上げていた。
バルカがその首根っこを掴んで引きずってくる。
「……終わったぜ、カイト。……これでもう、名誉なんて寝言は言わねえ。……あんたの忠実な犬だ」
カイトは、初めてその男を視界に入れた。
「……結構だ。……その男を『捕虜管理・清掃ユニット』のリーダーに任命する。……自分の部下二千人を、一人のエラーも出さずに管理しろ。……失敗は、即座に存在の消去を意味すると思え」
カイトの冷徹な声に、男はただ力なく頭を垂れた。
二千の脅威は、今や巨大な「資材の山」と、街を拡張するための「労働力」に分類されつつある。
「……戦いは終わりだ。……これより、管理フェーズへ移行する。……まずは彼らを収容する『高効率居住区』の設計を急げ」
カイトの視界には、もはや戦場ではなく、完璧に制御された「都市の設計図」が広がっていた。
(第72話 完)
【現在蓄積リソース:154,682 pt(感謝) / 340,490 evil(悪意)】
【所持金:金貨 0枚】
【状況:敵大隊長を屈服させ、忠実な管理端末へリペア完了。全軍の資材化を開始】
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます!
カイトさんは今、集まってきた「悪意」をどうやって「ポイント」に変えようか、とっても怖い顔で計算しています……。
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