第7話:報酬の精算と、タクティカル・アップグレード
大百足の巨体が動かなくなってから、村は一気にお祭り騒ぎのような喧騒に包まれた。
カイトの周りには村人たちが群がり、代わる代わる手を握り、涙を流して感謝を述べていく。
ボロボロのジャージ姿を、死地から生還した英雄の証として敬意の眼差しで見つめる者も少なくない。
【検知:村人たちからの持続的な感謝:+5、+8、+12……】
「……わかった、わかったから。まずは落ち着けって。おっさん、鼻水が飛んでるぞ」
カイトは適当に村人たちをいなしながら、視界に浮かぶポイントを確認した。
あの死闘の直後に、自身の肉体を治すために買い取った「自己再生」の消費分を差し引いても、まだわずかに余力がある。
【現在蓄積リソース:380 pt(感謝)】
「……さて、お楽しみの『報酬精算』といこうか」
村の長老らしき老人が、震える手で革袋を差し出してきた。
中には、ギルドからの報酬とは別の、村人たちがかき集めたであろう銀貨と銅貨が詰まっている。
「これは……我々からのせめてものお礼です。カイト様、どうかお受け取りください」
「ああ、助かるよ。これは正当な対価だ」
カイトが革袋を受け取った瞬間、システムが反応した。
【検知:銀貨10枚、銅貨100枚を獲得】
【対価の支払いが可能です。物質創造を選択してください】
カイトは、村人が用意してくれた一時的な宿所――簡素な空き家へと移動し、一人になると大きく息を吐いた。
そして、手に入れた金と、溜まった感謝ポイントをどう「投資」するか、メニュー画面と睨めっこを始める。
「まずは、この血生臭いジャージだ。リペアで直したけど、匂いや汚れまでは完全に落ちてないからな」
カイトは銅貨30枚を消費し、創造魔法を発動した。
【物質対価を確認:銅貨 30枚】
【創造開始:タクティカル・ジャージに『常時自動洗浄』機能を付与します】
淡い光がカイトの体を包み、次の瞬間、ジャージに染み付いていた泥や血、汗の匂いまでが光の粒子となって消え去った。
これで、いちいち洗濯の手間をかける必要もなく、常に新品同様の着心地が維持される。
さらにカイトは、先ほどの戦いでの教訓を活かし、防御面の大幅なアップグレードを決意した。
「次はこれだ。銀貨8枚……痛い出費だが、あの百足の殻みたいに『身体を貫かれる』のはもう御免だ」
【物質対価を確認:銀貨 8枚、銅貨 50枚】
【創造開始:タクティカル・ジャージの内層に『衝撃分散ナノケブラー』を換装。さらに、表面に『属性減衰コーティング』を付与します】
カイトのジャージの質感が、わずかにマットな質感に変化した。
見た目はただのジャージだが、その防御力は並の鉄の鎧を凌駕し、衝撃を全身に分散させることで内臓へのダメージを最小限に抑える構造だ。
「……ふぅ。これで多少の不意打ちは凌げる。金は飛んだが、命の対価だと思えば安いもんだ」
さらに残りの銅貨20枚を使い、ジャージの右ポケットに特殊な「生成機能」を付与した。
【物質対価を確認:銅貨 20枚】
【創造開始:1日1回限定、特定の栄養価を持つ『携帯用高エネルギーバー』の生成機能を付与します】
「無限に出るほど甘くはねえか。……まあ、1日1個でも、遭難した時の保険にゃ十分だろ」
最後に、カイトは残った「感謝ポイント」のリストを開いた。
装備は整った。次は、効率よく移動し、より多くのリソースを回収するための「足」が必要だ。
「身体強化だけじゃ、移動に時間がかかりすぎるからな。……これにするか」
【決定:感謝リソース 350 pt を消費します】
【習得完了:初級風魔法「風走」を恒久的に記憶しました】
カイトが指先を動かすと、足元に微かな風の渦が生まれた。
全力疾走をサポートし、跳躍距離を伸ばす。身体強化と組み合わせれば、移動速度は数倍に跳ね上がるだろう。
「よし。これで次の獲物への移動速度が上がる」
カイトは、手に入れたばかりの「自己再生」と「風走」の感触を確かめながら、強化されたジャージの感触を確かめた。
「金で装備を整え、感謝で魔法を買い、悪意で敵を叩き潰す。……だんだん、この世界の歩き方が分かってきたな」
窓の外では、まだ村人たちがカイトを讃える宴の準備をしている。
その騒がしい感謝の声を「BGM」に、カイトは高級な枕(銅貨5枚分)に頭を沈めた。
【現在蓄積リソース:30 pt(感謝) / 0 pt(悪意)】
【所持金:銀貨 2枚、銅貨 0枚】
カイトの異世界生活は、不便を一つずつ、相応の対価で「買い取る」ことで、着実に、そして生存率を高めながら無双へと近づいていた。




