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『等価交換の創造無双 〜ジャージ姿の俺、悪意を燃料に最強兵器を創り出す〜』  作者: beck2026


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第5話:最初の依頼と、見えないコスト

ギルドの喧騒が、カイトが歩くたびに波を分かつように静まっていく。

床にめり込んだ大男は、カイトが受付を離れてもしばらくの間、目に見えない重圧に押し潰されたまま呻き声を上げていた。

向けられた悪意を燃料にした「創造」は、その燃料が尽きるまで物理的な強制力を持ち続ける。

今のカイトにとって、この「その場限りの悪意」は、最も手軽な武器だった。

「さて、まずは何から手を付けるべきか」

カイトは掲示板の前に立った。

そこには、魔物討伐から薬草採取、果ては下水掃除まで、多種多様な依頼書が所狭しと貼り出されている。

今のカイトに必要なのは、魔法を永続的に買い取るための「感謝ポイント」と、生活基盤を整えるための「金」だ。

悪意は向こうから勝手にやってくるが、感謝と金は能動的に動かなければ手に入らない。

カイトの視線が、一枚の依頼書に止まった。

『緊急:街道沿いの集落に出没する「泥食い大百足マッド・センチピード」の討伐。報酬:銀貨15枚。および村人からの謝礼』

「……悪くないな。金も入るし、村人を助ければ感謝ポイントもまとめて稼げそうだ」

カイトがその依頼書を剥ぎ取ろうとした時、背後から遠慮がちな声が掛かった。

「あの……その依頼、お一人で受けるおつもりですか?」

振り返ると、そこには使い込まれた革鎧を着た、若い男の冒険者が立っていた。

年の頃はカイトと同じか、少し下に見える。

その顔には、先ほどの大男のような侮蔑の色はなく、純粋な「心配」が浮かんでいた。

「ああ、そのつもりだが。何か問題でも?」

「……いえ、その格好で、しかも新人の方だとお見受けしたので。マッド・センチピードは皮膚が岩のように硬くて、並の剣じゃ刃が立ちません。僕のパーティーも、さっきその依頼を断ってきたところで……」

カイトの視界に、穏やかな青いウィンドウが浮かぶ。

【検知:見知らぬ他者からの「純粋な懸念」:+5 pt】

「……ほう」

カイトは思わず独り言を漏らした。

命を助けたわけでもない、ただの「心配」すらも、微量ながら感謝と同じリソースとしてカウントされるらしい。

「心配してくれてありがとな。だが、俺はこれでも『準備』は万全なんだ」

カイトは少年に背を向け、受付に依頼書を叩きつけた。

「この依頼、受ける」

「あ、はい……カイト様ですね。……あの、お気をつけて」

【追加獲得:受付嬢からの「同情」:+2 pt】

「(……同情でも貯まるのか。本当に節操がないシステムだな)」

カイトはギルドを後にし、街の門へと向かった。

歩きながら、カイトは現在の残ポイントを確認する。

【蓄積リソース:37 pt(感謝) / 0 pt(悪意)】

「37ポイント……。この端数じゃ、次の魔法には到底届かない。まずはマッド・センチピードとかいう奴を、今持っているリソースだけで料理して、その対価で一気に跳ね上げる」

街道をしばらく歩くと、被害が出ているという集落が見えてきた。

畑は荒らされ、地面には巨大な生物が這い回ったような不気味な溝が刻まれている。

村人たちは家の窓から怯えたように外を覗いており、そこからは絶望に近い負の感情が漂っていた。

【検知:集団的な「恐怖」「絶望」:+40 evil】

【リソース:悪意エネルギー(広域型)を抽出中】

「敵が現れる前からエネルギーが貯まるのは助かるが……。おい、お出ましだぞ」

地響きと共に、地面から巨大な節足動物が姿を現した。

全長十メートルはあろうかという、禍々しい紫色の殻に覆われた大百足だ。

それはカイトのジャージ姿を視認すると、鋭い顎をカチカチと鳴らしながら、猛スピードで突進してきた。

「……なるほど、確かに硬そうだ」

カイトは冷静に分析する。

今習得している魔法は「復元」と「身体強化」のみ。

攻撃魔法も、ましてや回復魔法も、カイトは一つも持っていない。

身体強化ブースト――起動」

【リソース消費:微量の魔力を消費。身体能力を向上】

カイトは、迫りくる大百足の突進を、紙一重のところで横に飛んで回避した。

だが、その速度は凄まじく、風圧だけでジャージがバタバタと激しく揺れる。

魔物は獲物を逃したことに苛立ち、さらに強い殺気をカイトに向けてきた。

【検知:対象からの「殺意」:+25 evil】

【リソース:悪意エネルギーが「創造」の最低ラインに到達しました】

「よし……。お前のその『殺したい』っていう気持ち、ありがたく燃料にさせてもらうぜ」

カイトは逃げるのをやめ、真っ向から大百足に向かって走り出した。

魔物が巨大な顎を開き、カイトを噛み砕こうとする。

その瞬間、カイトは溜まった「悪意」のすべてを一点に集中させ、自身の「右拳」に対して創造魔法を発動した。

「悪意による一時創造――『超高硬度・杭打機パイルバンカー』」

【創造完了:悪意 65 pt を消費】

【一時的武装:右拳に、殻を貫くための「衝撃貫通ボルト」を具現化】

カイトの右拳が、魔物の最も硬い頭部の殻に激突した。

刹那、悪意を燃料に生み出された鉄の杭が、火花を散らしながら爆発的な圧力で打ち出された。

バキィィィィィィン!!

高い金属音が響き、魔物の殻に大きな亀裂が入る。

だが、魔物の巨体は止まらない。

【警告:対価(悪意 65 pt)が不足しています】

【創造物の強度が、対象の防御力を完全には上回れませんでした】

「クソっ、重力魔法が5万ポイントもする理由が分かったぜ。……安い殺意程度じゃ、このサイズを仕留める武器は創れないってことか!」

カイトはカウンターの衝撃を殺しきれず、弾き飛ばされて地面を何度も転がった。

「……っ!?」

痛みが走る。

ジャージの肩が破れ、鋭い殻の破片がカイトの脇腹を深く切り裂いていた。

どろりと熱い血が溢れ、ジャージの紺色を黒く染めていく。

カイトは咄嗟に脇腹に手を当て、頭の中で「リペア」を叫んだ。

だが、システムは冷酷な回答を返す。

【対象外:事象復元リペアは、非生命体(物質)のみを対象とします】

【警告:生体組織の修復には「治癒魔法ヒール」の習得が必要です】

「……あぁ、そうかよ。物と人間は別だってか……!」

激痛に視界が火花を散らす。

大百足は頭部を損傷しながらも、狂乱状態で再び突撃してくる。

村人たちの悲鳴がさらに高まり、辺りにはさらなる「恐怖」が充満していく。

【検知:周囲の「絶望」が深化:+100 evil】

カイトは荒い息をつきながら、破れたジャージの肩口に手をかざした。

「魔法で傷が治らねえなら……せめて『装備』だけでも直させろ!」

【魔法発動:事象復元】

【物質対価(魔力)を消費。タクティカル・ジャージの破損を修復】

破れていたジャージの布地が、瞬時に編み直されるように元通りになる。

だが、その下にある肉体の傷は開いたままだ。

ジャージが直ったことで圧迫され、止血代わりにはなったが、一刻も早くケリをつけなければ出血多量で意識が飛ぶ。

「……皮肉なもんだな。俺が死にそうになればなるほど、周囲の『負の感情』が溜まって、次の弾丸が創れるようになる」

カイトは震える足で立ち上がった。

脇腹を抑えた手に、べっとりと自分の血がつく。

等価交換。

今まで自分以外のリソース(金や他人の感情)だけで戦ってきたカイトが、初めて「自分の痛み」という代償を支払わされている。

「悪意を貯めて、一撃で仕留める武器を創る。……そのためには、もっと俺を『憎んで』もらう必要があるな」

カイトは大百足に向かって、あえて無防備に両手を広げた。

魔物を煽り、恐怖を煽り、自分を追い込むことで絶望をリソースへと変えていく。

「死ぬ気はねえよ。……この痛み分、きっちり最高の『感謝』を吐き出させてやる」

ジャージ姿の男の瞳に、冷徹な計算と、初めての「焦燥」が宿る。

無双への道は、まだ始まったばかりの泥臭い試行錯誤の中にあった。

【現在蓄積リソース:37 pt(感謝) / 125 pt(悪意:蓄積中)】

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