第32話:損切りできない愚者と、強制的清算
「……シルヴィアという女は、経営判断を誤り続けているな」
時計塔の最上階、巨大な歯車が静かに回る音を聞きながら、カイトは無機質に呟いた。
何度も刺客を送り込み、その度にカイトにリソースを献上し、ついには構成員の財布まで「集金」されている。普通の商売なら、とっくに損切りして撤退すべき局面だ。
「カイトさん、……また、外に怖い人たちが集まっています」
リアが窓の外を指差す。
塔を包囲するように、『轟雷の牙』の主力メンバーが総出で集結していた。中央には、怒りで顔を真っ赤に染めたリーダー、シルヴィアの姿がある。
「出てきなさい、カイト! ギルドの鼻つまみ者が、私たちの利権と誇りをどれだけ汚せば気が済むのよ!」
カイトは溜息をつき、ジャージの袖を捲り上げた。
「誇りか。……実体のない資産に固執して、実損を拡大させるとは。リア、耳を塞いでいろ。……この商談、こちらから『強制終了』させる」
カイトは扉を開け、悠然と外へ出た。
待ち構えていた数十人の構成員たちが一斉に武器を構える。その中心で、シルヴィアが雷を纏った細剣を突きつけた。
【検知:『轟雷の牙』一同からの「極大の殺意」と「組織の意地」:+1500 evil】
「(……十分だ。これだけの燃料があれば、奴らの『組織』そのものを解体できる)」
「カイト、死になさい! 『轟雷の牙』の全力、刻み込んであげるわ!」
シルヴィアが突進する。周囲の構成員たちも一斉に魔法を放ち、カイトを逃げ場のない魔力の檻に閉じ込めようとする。
「『悪を挫く力』を創るなら、対価は【悪意】。……蓄積ポイント、全開放」
【悪意消費:3500 pt ―― 超広域事象干渉・『強制倒産』】
カイトが指を鳴らした瞬間、シルヴィアたちが放った魔法、そして彼らが手にしていた魔導武器が、一斉に「逆流」を始めた。
事象復元の応用――対象のエネルギーを強制的に「使用前」の状態へ、それも暴走を伴う形で巻き戻す。
「な、何よこれ!? 私の雷が……武器が、崩れていく……っ!?」
「あんたたちの資産は、今この瞬間をもって凍結された。……次は、あんたたちの拠点と、これまでの不当利得を回収させてもらう」
カイトは「風走」で一瞬にしてシルヴィアの懐に潜り込み、魔導銃『等価の天秤』の銃口を彼女の眉間に突きつけた。
発砲する必要すらない。
カイトから放たれる圧倒的な「悪意の変換圧力」に、シルヴィアは膝をつき、呼吸を忘れたように震えた。
【検知:シルヴィアの「完全な戦意喪失」と「組織崩壊への絶望」:+1000 evil】
「……あ、あぁ……。私の、私の牙が……」
「『轟雷の牙』は今日で解散だ。……あんたたちの拠点の権利書と、これまでの略奪品は、俺が『事務的』にギルドへ受理させる。……これは報復じゃない。……市場の適正化だ」
カイトは冷たく言い放ち、動けなくなった構成員たちの中を悠然と歩き出した。
物理的な破壊ではなく、彼らが心の拠り所にしていた「組織」と「力」を、システム的に消滅させたのだ。
見上げた時計塔の窓からは、リアが驚きと、それ以上の畏敬の念を込めた視線でカイトを見ていた。
【検知:リアからの「絶対的な崇拝」:+600 pt】
「……さて。ゴミ捨ては終わったな。……リア、夕飯の続きにしよう。……明日は、奪った拠点の『リペア』で忙しくなるぞ」
街を騒がせていた一大勢力は、ジャージ姿の男たった一人によって、あまりにも呆気なく「清算」された。
(第32話 完)
【現在蓄積リソース:3382 pt(感謝) / 1090 pt(悪意:蓄積中)】
【所持金:銀貨 12枚(※別途、轟雷の牙の全資産を回収予定)】
【ギルドランク:C】
【状況:轟雷の牙、事実上の解体】




