第31話:資金枯渇と、悪意の回収計画
改修を終えた時計塔の内部は、異世界の常識を置き去りにした快適空間へと変貌していた。
しかし、カイトは自室のデスクで、網膜に表示される「財務状況」を見つめ、静かに眉を寄せた。
「……残金、銀貨0枚。……キャッシュフローが完全に止まっているな」
拠点の改修とリアへの投資により、カイトの手元の現金は底をついていた。
いくらポイントがあろうとも、物理的な「物」を創る、あるいは維持するには法定通貨が必要だ。
「カイトさん、あの……お掃除、終わりました。……とっても、ピカピカです」
リアが控えめにドアをノックして入ってくる。
彼女はカイトが「リペア」で復元した現代風の清掃用具を使い、塔の中を磨き上げていた。彼女の表情には、自分の居場所を守るための必死さと、カイトへの深い感謝が滲んでいる。
【検知:リアからの「献身的な感謝」と「居場所への執着」:+200 pt】
「……ご苦労。だがリア、問題が発生した。……今の俺たちには、明日を回すための現金がない」
「えっ……。あ、あの、私、またどこかで働いて……!」
「いや、その必要はない。……幸いなことに、この塔の周りには『歩く金鉱山』がいくつか転がっているからな」
カイトは「エコー・ロケーション」を最大広域モードで起動した。
塔の周囲、路地裏の影、隣接する建物の屋根。
そこには、カイトの暗殺に失敗しながらも、依然として監視を続けている『轟雷の牙』の構成員たちが潜んでいる。彼らの発する「苛立ち」と「功名心」は、カイトにとって最も効率の良い換金対象だ。
「……リア、夕飯の準備をしておけ。……少し、外の『ゴミ拾い』をしてくる」
カイトはジャージの裾を払い、無造作に時計塔の扉を開けた。
一歩外へ出た瞬間、張り詰めた殺気が周囲からカイトへと集中する。
【検知:周囲の伏兵たちからの「殺意」と「焦燥」:+800 evil】
「(……いい。ポイントの供給効率が格段に上がっているな。……『悪意』は既に飽和状態だ。……なら、次はこれを『強制的な商談』へと変換する)」
カイトは逃げる様子も見せず、あえて人通りの少ない袋小路へと足を向けた。
案の定、五人の男たちが音もなく現れ、退路を断つ。
「……おい、ジャージ野郎。運がなかったな。……死ぬ前に、その塔をどうやって直したか、吐いてもらおうか」
「商談のテーブルに着く前に、まずは『手数料』を払ってもらおう。……あんたたちの持っている全財産。それが、俺の時間を奪った対価だ」
カイトは左手を空間庫へ、右手は背後の壁に添えた。
「『悪を挫く力』を創るなら、対価は【悪意】。……蓄積ポイント、3000突破。……『換金』を開始する」
【悪意消費:1500 pt ―― 空間固定・重力加圧】
「な……!? 体が、重……っ!」
カイトを中心に、局所的な高重力空間が発生した。
襲いかかろうとした男たちは、地面に這いつくばり、肺から空気を搾り出されるような悲鳴を上げる。
カイトは無表情のまま、動けなくなった男たちに歩み寄り、その懐から財布を一つずつ「回収」していった。
「……合計、銀貨12枚と銅貨数枚か。……不渡りを出すよりはマシだな」
【検知:伏兵たちの「屈辱」と「理不尽への絶望」:+400 evil】
「……足りない分は、あんたたちのお頭――シルヴィアに直接請求しに行くと伝えておけ。……次の商談は、銀貨単位じゃ済まないぞ」
カイトは奪った銀貨を指先で弄びながら、絶望に顔を歪める男たちを捨て置き、悠然と時計塔へと戻っていった。
戦いではなく、あくまで「資金調達」。
カイトのルールは、この世界の悪意すらも、着実に自分たちの「生活費」へと変換していた。
(第31話 完)
【現在蓄積リソース:3132 pt(感謝) / 2590 pt(悪意:蓄積中)】
【所持金:銀貨 12枚(※不当な利得を強制回収)】
【ギルドランク:C】




