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『等価交換の創造無双 〜ジャージ姿の俺、悪意を燃料に最強兵器を創り出す〜』  作者: beck2026


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第3話:ポイント交換と、魔法の買い取り

暴走する馬車は、石畳を火花が出るほど削りながら少女へ迫っていた。

周囲の人間は、ただ悲鳴を上げるだけで動けない。

誰かが助けてくれるのを待つか、あるいは残酷な結末に目を背けることしかできない。

今のカイトには、魔法を発動するためのリソース……つまり人からの「感謝」が1ポイントも貯まっていなかった。

「創造魔法」のリストは、今はまだ白紙だ。

指先一つで時間を止めることも、物理法則を捻じ曲げて鉄壁の障壁を張ることも、今のカイトには不可能だった。

「……ま、物理でいくしかないよな」

カイトは、銀貨2枚で補強したばかりの『タクティカル・ジャージ』の伸縮性を確かめるように、ぐっと重心を落とした。

そして、爆発的な脚力で全力で地を蹴った。

銀貨2枚分の改造は、伊達ではない。

足裏のグリップが正確に石畳を捉え、カイトの体は弾丸のような速度で少女の元へ滑り込んでいく。

「――よっと!」

間一髪、少女の腰を力強く抱き寄せると、そのまま背中で受け身を取るように回転して馬車の進路から外れた。

直後、巨大な車輪がカイトのいた場所を猛スピードで通り過ぎ、轟音と共に街路樹に激突してようやく止まった。

周囲に、一瞬の静寂が訪れる。

カイトは少女をゆっくりと地面に下ろし、膝についた砂を無造作に払った。

「怪我はないか? お嬢ちゃん」

少女は大きな目をパチクリさせ、状況が理解できない様子で震えていたが、やがて絞り出すような声で言った。

「……あ、ありがとう……ございます……っ!」

その瞬間、カイトの視界の端で、清涼感のある青いシステムウィンドウが鮮やかに弾けた。

【検知:純粋な「感謝」を個人より獲得しました:+20 pt】

【検知:周囲の目撃者から「安堵」および「称賛」を獲得しました:+15 pt】

【現在蓄積リソース:35 pt】

「ほう……これが魔法の種か。数字で見えると分かりやすいな」

カイトが空中に浮かぶメニューを視線で操作すると、未習得の魔法ツリーが半透明で表示された。

「ありがとう」という目に見えない感情が、物理法則を書き換えるための具体的な「通貨」に変換されたのだ。

習得リストを眺めると、今の35ポイントで覚えられる魔法がいくつか点灯している。

・【生活魔法:洗浄クリーン】……必要コスト 10 pt

・【初級魔法:着火ライト】……必要コスト 15 pt

・【身体強化:瞬発力UP】……必要コスト 30 pt

「35ポイントか。……意外とシビアだな。少女一人の命を助けて、ようやく生活魔法レベルかよ」

カイトが冷静にそんな計算をしていると、周囲の人間がようやく我に返り、ワッと駆け寄ってきた。

「おい、あんた! 今の動き、凄かったな!」

「大丈夫か? ジャージの兄ちゃん、怪我はないか!」

【追加獲得:称賛の声(小):+1 pt】

【追加獲得:驚愕による注目:+2 pt】

ウィンドウに1ポイント、2ポイントと端数のようなポイントが積み上がっていく。

どうやら、直接的な感謝だけでなく、周囲の好意的な反応もわずかながらリソースになるらしい。

だが、その平穏な空気を破るように、激突した馬車から一人の男が転がり出てきた。

「ひ、ひぃぃ! なんてことだ、私の積荷が……商売道具が!」

男は、馬車の背後で粉々に砕け散った高級そうな陶器を見て、顔を真っ青にしている。

その男から溢れ出しているのは、救われたことへの感謝ではない。

積み荷を失った絶望と……そして、それを防げなかった周囲への八つ当たりに近い、ドロドロとした「逆恨み」だった。

【検知:対象から「責任転嫁による悪意」を確認】

【リソース:悪意エネルギーを検知しました。破壊魔法への一時変換が可能です】

「おっと……。おじさん、そんな顔すんなよ。せっかく助かったんだからさ」

カイトは、少女を救ったことで貯まった35ポイントの感謝リソースを見つめた。

そして、その場で「魔法の買い取り」を確定させる。

【決定:感謝リソース 30 pt を消費します】

【習得完了:初級魔法「事象復元リペア」を恒久的に記憶しました】

「よっしゃ。これで俺は、一生『直す魔法』が使えるってわけだ」

一度覚えた魔法は、二度と忘れない。

消費したポイントは戻ってこないが、カイト自身のスペックとして「事象復元」が刻まれた。

「おじさん、そんなに絶望すんなって。……これだけ野次馬がいれば、『お釣り』が出るくらいは稼げそうだからな」

カイトは、男の前に歩み寄ると、砕けた陶器の山に手をかざした。

だが、ただ習得したばかりの魔法で直すだけでは面白くない。

カイトはここで、先ほどならず者から奪った「銅貨」を2枚、手のひらで転がした。

「等価交換・複合創造。習得済みの魔法に、物質としての対価を追加投入する」

【物質対価を確認:銅貨 2枚】

【付加価値の創造を開始します】

カイトの指先から、眩いばかりの黄金の光が溢れ出した。

砕け散った陶器の破片が、まるで見えない糸で引かれるように宙に浮き、ピタリと組み合わさっていく。

魔法による「復元」と、銅貨の価値を変換した「装飾」の同時発動だ。

一瞬の後、そこにあったのは単なる復元品ではなかった。

陶器の継ぎ目には美しい金継ぎのような模様が走り、以前よりも遥かに高級感のある、芸術的な逸品へと再構成されていた。

「な、なんだこれは……!? 元通りどころか、王宮に納める名工の品のような美しさに……!」

男の顔から悪意が消え、今度は腰を抜かすほどの驚きと、魂の底からの「感謝」が溢れ出した。

【検知:劇的な事象改変への強い感謝を確認:+150 pt】

【検知:周囲の観衆からの驚愕と賞賛:+80 pt】

「……お、一気に貯まったな。これなら次は『攻撃魔法』か『移動魔法』も選べそうだ」

カイトは、脳内のスキルツリーが次々と点灯していくのを眺めて、ほくそ笑んだ。

「ありがとう」という言葉が、最強への階段を上るための金になる。

「悪意」が、自分を邪魔するものを排除するための武器になる。

「金」が、この世界の物質を自在に操るための鍵になる。

ジャージ姿の男は、圧倒的なリソースを管理する側の立ち位置を、この日、完全に理解した。

「さて……。次はどいつが俺に魔法を『教えて』くれるんだ?」

カイトは、驚愕に包まれる大通りを、悠然と、そして傲慢に歩き出した。

カイトにとって、この異世界はもはや冒険の舞台ではなく、効率よくポイントを回収するための「感情の採掘場」でしかなかった。

【現在蓄積リソース:235 pt】

【次なる魔法の買い取りまで……残り 265 pt】

カイトの指先で、小さな光の粒が、次の獲物を探すようにチカチカと輝いていた。

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