第2話:等価交換の経済学
路地裏には、三人の男たちが仲良く壁に埋まり、白目を剥いていた。
カイトの手元では、役目を終えたネオンカラーの水鉄砲が、光の粒子となって霧散していく。
「ふぅ。初撃にしては上出来か」
カイトはジャージの膝を叩き、転がっている男たちの懐から革袋を回収した。
中身を確認すると、鈍い銀色の光を放つコインが数枚と、大量の銅貨が入っている。
「……よし、これで『物質』の創造が可能になったな」
カイトの脳内に、無機質なウィンドウが浮かび上がる。
【検知:銀貨3枚、銅貨52枚】
【対価の支払いが可能です。創造する物質を選択してください】
「えーっと。まずはこのジャージをなんとか……いや、やっぱりこれは着ていたい。なら、これをベースに『補強』だ。あとは、空腹をなんとかしたいな」
カイトは手に入れた銀貨のうち2枚を「支払い」として念じた。
すると、手の中の銀貨がふっと消え、代わりにカイトが着ている紺色のジャージが淡い光に包まれる。
【創造完了:高耐久・防汚加工『タクティカル・ジャージ』へ換装しました】
【警告:対価の不足により、物理防御力は「並」に留まります】
「……なるほど。銀貨2枚分だと、見た目と肌触りが良くなって、汚れにくくなる程度か。防弾仕様とかにするには、金貨レベルが必要ってことだな」
物質創造はシビアだ。
「石ころを金に変える」なんて錬金術は通用しない。
あくまで、支払った価値に見合うだけのものしか形にならない。
「次は飯だ。えーっと、銅貨10枚で……」
カイトが残りの銅貨を差し出すと、目の前に湯気が立つ「牛丼(特盛)」が出現した。
「……おお、ちゃんと紅生姜まで乗ってる。神様、分かってるじゃねえか」
路地裏の異様な光景の真ん中で、ジャージ姿の男が牛丼をかき込む。
等価交換のルールは厳しいが、逆に言えば「対価」さえあれば、この異世界で現代の快適さを再現できるということだ。
「ぷはぁ、食った。……さて、次は『感謝』だな」
カイトは空になったどんぶりを消去し、路地の外へと歩き出す。
魔法、つまり超常現象を引き起こすには、誰かからの「ありがとう」が必要になる。
「人助け……。手っ取り早く感謝を稼ぐには、やっぱりギルドとかか?」
その時、路地の先にある大通りから、悲鳴が聞こえてきた。
暴走した馬車が、幼い少女を今にも跳ね飛ばそうとしている。
カイトの視界に、新たな青いウィンドウが躍った。
【検知:周辺住民の「恐怖」および「救済への渇望」】
【注意:現在、蓄積された「感謝」はゼロです。能動的な魔法の発動は不可能です】
「……チッ。先に『支払い』を済ませろってか。世知辛いね」
カイトは、新しくなったジャージの袖をまくり、地を蹴った。
魔法が使えないなら、身体能力だけで助けるまでだ。
それが未来の「特大の感謝」に繋がる投資だと思えば、安いものである。




