第27話:掃除屋の誤算と、対価の請求
夕闇が街を包み込み、街灯の魔石がぼんやりと灯り始める。
リアは、先ほどのアイスの余韻に浸りながらカイトの隣を歩いていたが、カイトの足取りがわずかに変わったことに気づき、その顔を見上げた。
「……カイト、さん……?」
「リア、そのまま歩け。歩幅を変えるな」
カイトの「エコー・ロケーション」には、背後の路地から突き刺さる三つの鋭い波形が映っている。
彼らはプロだ。気配を消し、呼吸を殺し、通行人の雑踏に紛れて完全に距離を詰めている。
だが、彼らの致命的な誤算は、カイトという存在を「魔法使い」や「冒険者」の枠組みで捉えていることだった。
【検知:右後方、左後方、および頭上。三人の刺客からの「冷徹な殺意」:+600 evil】
「『悪を挫く力』を創るなら、対価は【悪意】。……あんたたちのプロ意識が、そのまま俺の弾丸になる」
カイトはリアを自分の右側に引き寄せると同時に、左手で空間庫から魔導銃『等価の天秤』を引き抜いた。
「チェックメイトだ」
背後の暗闇から、三人の刺客が同時に飛び出した。
一人は屋根から短剣を逆手に持ち、カイトの脳天を。
残る二人は左右から、逃げ場を塞ぐようにして心臓を狙う。
【悪意消費:1200 pt ―― 瞬間創造・全方位散弾】
カイトは銃口をどこに向けることもなく、ただ引き金を引いた。
銃身から放たれたのは鉛の玉ではない。蓄積された「悪意」を変換した、目に見えない衝撃の波だ。
ドォォォォン!!
「なっ……!? がはっ……!」
空中で交差しようとした三人の影は、まるで見えない壁に激突したかのように、全方位に吹き飛ばされた。
屋根から降った男は壁に激突し、左右の男たちは石畳を数十メートルも転がっていく。
カイトは「身体強化」を使い、一瞬で倒れた一人の胸元に銃口を突きつけた。
「……誰の依頼だ。商談の基本は透明性だぞ。……答えないなら、あんたのその『命』という資産を強制的に清算する」
「……くっ、……『牙』の……お頭だ……。……新人を消せと……」
【検知:刺客の「敗北感」と「死への恐怖」:+350 evil】
「なるほど。シルヴィアか。……彼女はリソースの使い方が下手だな。自分たちの弱さを露呈させるために、わざわざ俺にポイントを貢ぐとは」
カイトは銃を収めると、震えているリアの肩を軽く叩いた。
「リア、終わったぞ。……不衛生な連中だ。ジャージに埃がつく前に移動する」
「……は、はい……。……すごいです、カイトさん。……本当に、一瞬で……」
リアは、倒れ伏した刺客たちを一瞥し、それからカイトの無機質な背中を追った。
カイトには、敵への憎しみも、勝利への悦びもない。
ただ、必要だから排除し、その過程で得たエネルギーを自分の成長へと繋げる。その合理的な姿が、リアにはどんな英雄よりも頼もしく見えていた。
【検知:リアからの「絶対的な信頼」と「安堵」:+400 pt】
カイトの視界で、感謝ポイントが再び上昇を始める。
「(感謝リソース合計:2932。……そろそろ、ギルドランクを上げるための『実績』を、まとめて買い取る時期だな)」
カイトは、遠くでこちらを伺っているシルヴィアの偵察員に向けて、冷ややかな視線を一瞥だけ送った。
次に動く時は、向こうが持っているすべての資産――立場、金、そして命を、対価として吐き出させるつもりだった。
(第27話 完)
【現在蓄積リソース:2932 pt(感謝) / 3140 pt(悪意:蓄積中)】
【所持金:銀貨 13枚】
【ギルドランク:D(※ランクアップ準備中)】




