第25話:効率的な護衛と、悪意の換金
街の服屋を出たリアは、カイトが選んだ簡素ながらも丈夫な麻のワンピースに身を包んでいた。汚れが目立たない深い紺色。それはどこか、カイトのジャージの色に似ていた。
「……カイトさん。……ありがとうございます」
「礼には及ばない。代金は銀貨3枚。それと、俺の隣で『普通の子供』として振る舞う手間賃だ。将来の給与から天引きしておく」
カイトは「エコー・ロケーション」の感度を上げ、周囲の密度を探った。
路地裏、屋根の上、そして通りの向かい。
リアを連れて歩き出した瞬間から、周囲の「悪意」の純度が跳ね上がっている。
「……リア。ここからは少し歩きづらくなる。俺の左腕を掴んでおけ。……何があっても、離すなよ」
「……はい。……っ!」
リアがカイトの腕を掴んだのと同時、背後の屋根から三つの影が音もなく舞い降りた。
『轟雷の牙』が送り込んだ、対人特化の暗殺者たちだ。彼らは手にした短剣を抜き放ち、一斉にカイトの死角――リアの背後を狙って突進する。
【検知:暗殺者たちからの「卑劣な加害意思」:+300 evil】
カイトは振り返ることなく、右手を空間庫へ滑らせた。
「『悪を挫く力』を創るなら、対価は【悪意】。……今のあんたたちの感情、最高に使い勝手がいいぞ」
【悪意消費:600 pt ―― 瞬間創造・広域衝撃波】
カイトを中心に、不可視の魔力波が円状に炸裂した。
突進してきた三人の暗殺者は、獲物に触れることすら叶わず、まるで巨大な壁に激突したかのように弾き飛ばされた。石壁に背中を打ち付け、悶絶する男たち。
「……な、なんだ、今の魔法は……!? 詠唱も、予備動作も……」
「予備動作なら、あんたたちがたっぷりと用意してくれただろう。……その殺気という名のエネルギーをな」
カイトは倒れた男たちを見向きもせず、ゆっくりと歩みを進める。
リアは目を見開き、カイトの横顔をじっと見つめていた。暴力が振るわれたはずなのに、カイトの周囲には血の匂いも、不快な高揚感もない。ただ、冷徹に作業をこなす静寂だけがあった。
「……カイトさん、すごいです。……怖く、ない」
「そうか。それはいい『投資効果』だ」
カイトはそのまま、街の中央にある冒険者ギルドへ足を踏み入れた。
喧騒としていたギルド内が、リアを連れたカイトの登場で一瞬にして静まり返る。
掲示板の前には、『轟雷の牙』のリーダー、シルヴィアが腕を組んで待ち構えていた。その背後には、武装した十数人の構成員たちが並び、ギルドの空気を重く支配している。
「……カイト。商人の倉庫を荒らし、挙句の果てにその『商品』を連れ歩くなんて、随分と野蛮なことをしてくれるじゃない」
シルヴィアの瞳には、これまで以上の激しい怒りと、何より自分たちの利権を汚されたことへの「怨嗟」が渦巻いていた。
【検知:シルヴィアおよび構成員一同からの「集団的憎悪」:+800 evil】
カイトの視界で、悪意ポイントがメーターを振り切らんばかりに上昇する。
これほどの「燃料」があれば、今のカイトならこの場にいる全員を一瞬で無力化するような、規格外の力を「等価交換」で引き出すことも可能だ。
だが、カイトは魔導銃(等価の天秤)を抜かなかった。
代わりに、懐から一枚の書面――揚水場の「特別顧問登録証」を、ひらひらと見せつける。
「野蛮なのは、街の公共施設を守る顧問に対し、私兵を差し向けるあんたたちの方だ。……この件、ギルド本部の査察官に報告してもいいんだが、どうする? あんたたちの『信用』という名の資産、暴落させても構わないが」
「……貴様……っ!」
【検知:シルヴィアの「屈辱」と「殺意」の増幅:+400 evil】
「……ポイントの貯まりが良いな。……リア、行くぞ。ここに長居しても、これ以上面白い商談はなさそうだ」
カイトはシルヴィアの殺意を無視し、リアの手を引いて受付へと向かった。
力でねじ伏せるのではなく、相手が守ろうとしている「価値観」や「社会的立場」を逆手に取って追い詰める。
リアは、カイトの背中越しに見えるシルヴィアたちの悔しそうな顔を見て、初めて小さく、本当に小さく微笑んだ。
「……お疲れ様です、カイトさん。……今の、すごく『かっこいい』対価でした」
「……そうか。なら、今の言葉を『感謝』として計上しておく」
カイトのルールは、今日も着実にリソースを回収し、彼という名の「最強のシステム」をアップデートし続けていた。
【現在蓄積リソース:2082 pt(感謝) / 2390 pt(悪意:蓄積中)】
【所持金:銀貨 14枚】
【ギルドランク:D】




