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『等価交換の創造無双 〜ジャージ姿の俺、悪意を燃料に最強兵器を創り出す〜』  作者: beck2026
砂漠の国編

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208/227

第208話:忘れ去られた旧王都と、立ち込める濃霧

世界の天頂に浮かぶ古代都市『アエロ・フィード』の気流制御インフラを完璧にデバッグし、下界を脅かしていた巨大竜巻の不備を解消してから、さらに数日が経過していた。

 

 カイトの四輪駆動車と白銀の高級キャンピングトレーラーは、天空から地上へと滑らかに降下し、再び大陸の街道をひた走っていた。

 

 現在、移動要塞が差し掛かっているのは、周囲を険しい外輪山に囲まれた、広大な盆地地帯だった。

 

 標高が下がるにつれて、周囲の景色は青空から一転し、視界を完全に遮断するほどの、どんよりとした「白い濃霧」へと塗り替えられていく。

 数メートル先すら見通せないその霧は、ただの自然現象ではなく、どこか粘り気のある、冷たい魔力の残滓を孕んでいた。

 

「……判定。天空都市領域からの完全な離脱を確認。これより、高精度ナビゲーション端末の示す次なる構造不備の座標へと進入する。……周辺大気における視界不良率、八十八パーセント。路面の湿潤状態、通常値を超過」

 

 カイトは衣服に汚れ一つない漆黒のジャージを纏ったまま、無表情でハンドルを握っていた。

 

 外の世界は、前方の道路が霧に隠れて全く見えず、普通の旅人であれば足を踏み外して崖下に転落するか、霧に潜む魔獣の餌食になるような絶望的な悪環境。

 しかし、四輪駆動車の最新鋭サスペンションと、等価交換で最適化された車体構造が、ぬかるんだ路面の滑りを完璧に抑制していた。

 

 車内は外界の不気味な湿気や冷気とは無縁の、エアコンディショナーによる快適な二十四度が保たれ、極上の静寂が維持され続けている。

 

「カイト様! お外が真っ白で何も見えないですね。でも、お家の中はカラッとしていて、とっても過ごしやすいです! あ、ジャージのポケットからさっき出てきた『エネルギーゼリー』、冷たくてとっても美味しいです!」

 

 助手席のリアが、ジャージの袖をパタパタと揺らしながら、ちゅうちゅうとゼリーを吸って耳をピコピコと動かした。

 

 カイトの特殊なジャージの機能によって一日二回提供される簡易食料と、トレーラー内の完璧な宿泊インフラ。それらによる徹底した栄養とコンディション維持の恩恵により、彼女の獣人としての五感は、この視界ゼロの濃霧の中にあっても完全に万全な状態を維持している。

 

「ふふ、お空の上の次は、ずいぶんとおどろおどろしい場所ね。この霧の奥から漂ってくるのは、ひどく古くて、カビ臭い……、歴史の遺物の匂いだわ。カイト、あのナビゲーションの画面には、この先に何があると表示されているの?」

 

 本革のローソファに深く腰掛け、優雅に冷えた果実水を口に運んでいたエルザが、調律杖の先端でダッシュボードの液晶画面を指差し、赤い瞳を細めた。

 

 外界のノイズを完全にシャットアウトした最上のラグジュアリー空間のおかげで、真祖である彼女の魔力は一滴の目減りもなく、いつでも世界を調律できる「満床」の状態にある。

 

「……肯定だ。ナビゲーションの透過マップが指し示すのは、数百年前の戦乱によって歴史から完全に忘れ去られた、古の旧王都の廃墟『レムリア・フォール』。……判定。当該領域において、大霊峰の魔力が正常化した影響により、逆に古い防衛結界が異常同期を起こし、永続的な『魔力濃霧』を周囲の街道へと垂れ流し続けているという、大規模な環境インフラのバグを感知している」

 

 カイトは感情の起伏がない声で淡々と答えた。

 

 本来であれば正常な魔力の恩恵を受けるはずの領域が、管理者のいないまま数百年放置された自動システムによって暴走し、大陸の物流や交通の大きな障害ボトルネックと化している形跡が、カイトの論理式によって弾き出されていたのだ。

 

「歴史の忘れ形見、ね。誰も管理していない自動の防衛システムほど、他人の迷惑を顧みないタチの悪い不備はないわね。どうせまた、内側の制御盤が錆びついてろくでもないバグを溜め込んでいるに決まっているわ」

 

 エルザが不敵に口元を歪めた、その時だった。

 

 四輪駆動車のフロントガラスの向こう、立ち込める白い濃霧の奥から、突如としてゴトゴトという重厚な駆動音が響き渡った。

 

 現れたのは、旧王都の境界を守るために配置されていた、全長数メートルに及ぶ古代の『防衛石像兵ストーン・ガーディアン』の集団、数十体。

 長年の放置によって表面には苔が蒸し、蔦が絡みついているが、大霊峰から流れ込んだ過剰な魔力によってその瞳が不気味に赤く発光している。

 

『――侵入者を感知。旧王都レムリアへの接近を拒絶する。……識別コード、不一致。ただちに排除行動を開始しろ――』

 

 石像兵たちの胸に刻まれた古代の魔導回路が、狂ったように点滅する。

 彼らは錆びついた大剣を振り上げ、カイトたちの車両を「不法侵入の異物」として完全に叩き潰すべく、濃霧の中から一斉に突撃してきた。

 

「カイト様、お外の石の塊たちが怒って向かってきます! お家を踏んづけられる前に、私が外に出て、あの足首を全部へし折ってきます!」

 

 リアがシートから身を乗り出し、ジャージの裾を力強く握りしめた。

 

「……確実性を欠く。リア、車外での物理的な迎撃は効率が低い。……金貨三枚を提示」

 

 カイトは衣服に塵一つないジャージのポケットから手を抜き、懐の財布から輝く金貨を三枚取り出すと、正面の空間へと静かに提示した。

 

「……等価交換」

 

 提示した正当な財貨の価値と引き換えに、カイトの知識にある現代の物品をそのまま具現化し、世界の物理法則を一時的に上書きする絶対のルール。

 

 捧げられた金貨が、まばゆい光の粒子となって空間で音もなく消滅していく。

 

 それと引き換えに、カイトの正面の空間に具現化されたのは、強大な破壊兵器などでは断じてない。

 

 現代の地球において、湿気の多い日本の梅雨時の部屋などで一般的に広く使われている、ごく普通のプラスチック製の生活家電――『家庭用コンパクト除湿機』の白い機体だった。

 

『オオオオオオオオオ――ッ!!!』

 

 古代の石像兵たちが、大剣を振り下ろしながら目鼻もつかない霧の奥から迫り来る。

 

「……固有スキル『重力操作』、同時展開。吸引および凝縮のベクトルを反転」

 

 カイトは無表情のまま右手を小さく翻した。

 

 具現化された除湿機の吸気口の周囲だけ、重力のベクトルを内側へと猛烈に集中させ、固定したのだ。

 ただの生活家電。しかし、カイトの重力制御によって空間の圧力が上書きされたことで、除湿機は周囲数キロメートルに存在する「魔力を孕んだ水分(濃霧)」を一滴残らず吸引する、超高密度の『大気均質化デバッガー』へと強制的に上書きされた。

 

 シュゥゥゥゥゥゥゥゥゥン――ガシャァァァン!!!

 

 次の瞬間、回廊を覆い尽くしていた数百万トンの濃霧が、カイトの除湿機へと一直線に吸い込まれ、一瞬にしてただの「綺麗な水」へと凝縮されて排水タンクへと溜まっていった。

 

 霧という最大のカモフラージュと、魔力供給源を同時に奪われた古代の石像兵たちは、術式の安定性を一瞬で喪失した。

 大剣を振り下ろす寸前の体勢のまま、内部の魔力回路が急激な乾燥によって完全にショートし、パシィィィンという小気味良い音を立てて、その場にただの動かない「物言わぬ石像」へと戻り、沈黙した。

 

 カイトの狙いは、敵を破壊することではない。

 現代の除湿機の構造と重力制御を組み合わせ、霧という「術式の媒体」を理詰めで消し去ることで、相手の防衛インフラそのものを完璧に機能停止デバッグすることだった。

 

「あらあら……。本当に、あの地味な白い箱一つと、貴方の重力の悪戯だけで、数百年の濃霧の結界をただの『水溜まり』に変えてしまうのね」

 

 エルザが可笑しそうにクスクスと笑い、ソファに深く背を預けた。

 

「わあ、お外がすっごく遠くまで見えるようになりました! カイト様、すごいです!」

 

 霧が完全に晴れ渡った前方には、数百年もの間、誰の目にも触れることのなかった、巨大な黒鉄の城壁と、静まり返った旧王都の壮大な廃墟群が、その全貌をあらわにしていた。

 

「……不備の一時解消を確認。これより旧王都の正門へと進入し、暴走する防衛管理システムの最深部へと直進する」

 

 カイトは感情の起伏がない声で告げ、再びアクセルを滑らかに踏み込んだ。

 

 長年の霧に隠された新たなバグが、その冷徹なデバッガーの到来を待つ中、白銀のトレーラーを牽引する漆黒の移動要塞は何一つ破損することなく、歴史の闇に沈んだ旧王都の奥深くへと、静かに、そして確実に向かって走り出した。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

もしこの「ジャージ管理者の等価交換ファンタジー」を面白いと思ってくださったら、ぜひ評価の「星」やブックマークで応援していただけると、カイトの魔力と作者のモチベーションがリペアされます!

よろしくお願いいたします。

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