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『等価交換の創造無双 〜ジャージ姿の俺、悪意を燃料に最強兵器を創り出す〜』  作者: beck2026
砂漠の国編

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第207話:暴走する心臓部と、安全遮断の論理

中央統括神殿の重厚な大理石の扉を静かに押し開け、カイトの四輪駆動車と高級キャンピングトレーラーは、天空都市『アエロ・フィード』の最深部へと滑り込んだ。

 

 神殿の内部は、外の美しい白亜の街並みとは一転して、どす黒い赤紫色の魔力光に染め上げられていた。

 

 その中央に鎮座するのは、都市の全気流を制御する巨大な球体構造体――『気流制御陣コア』である。

 

 大霊峰の魔力が正常化したことで、そこから流れ込む膨大なエネルギーを受け止めきれず、制御陣は不気味な地鳴りを立てながら激しく自転していた。

 火花を散らしながら膨れ上がる大気は、今にも神殿ごと都市全体を木っ端微塵に吹き飛ばしかねない、限界寸前の暴走状態にあった。

 

「……判定。天空都市の中枢駆動源における、深刻な過負荷暴走。エネルギーの流入量が許容値を大幅に超過している。……このまま放置すれば、百二十秒以内に構造的な自壊を起こし、周辺大気圏の完全な崩壊を招く。……社会的、かつ環境的な絶対の不備」

 

 カイトは衣服に汚れ一つない漆黒のジャージを纏ったまま、無表情でハンドルを握り、目の前の暴走する巨体を見つめていた。

 

 外の世界では、制御陣から漏れ出た凶悪な熱風が吹き荒れ、神殿の分厚い壁を内側から削り取っている。

 しかし、連結されたキャンピングトレーラーの内部は、エアコンディショナーの完璧な働きにより、外界の破滅的な熱量など微塵も感じさせない、快適な二十四度の冷気と最上の静寂を維持し続けていた。

 

『ああ、ああ……! 何ということだ! 地脈の魔力が急に増えすぎたせいで、我が一族が数百年守ってきた古代の遺物が、言うことを聞かん……っ! このままでは、聖なるアエロ・フィードが下界へ墜ちてしまう……っ!!』

 

 制御陣の制御台にしがみつき、髪を振り乱して狂乱していたのは、純金で刺繍された最高位の法衣を纏った『天空最高導師』だった。

 

 彼は正門の守備兵たちが全滅したことすら気づかないほど、制御不能となった古代の力に対する恐怖に呑まれていた。彼らの傲慢な支配体制は、この暴走するバグの前で、ただ右往左往するだけの無力な存在へと成り下がっていた。

 

「カイト様、あのおっきな丸いおもちゃ、お腹がパンパンで苦しそうです! 今にもドカンって爆発しちゃいそう!」

 

 助手席のリアが、ジャージの袖をぎゅっと握り締めながら、鋭い瞳で赤黒い球体を睨みつけた。

 

 トレーラーの贅沢なインフラによって完璧な栄養と睡眠を維持している彼女の五感は、その破滅の秒読みを肌で正確に感じ取っていた。

 

「ふふ、本当ね。自分たちの身の丈に合わない大きな力を囲い込もうとするから、こういう無様な不備を溜め込むのよ。カイト、あのドロドロに溶けかかった心臓部、私の魔力で一瞬で凍らせて動きを止めてあげましょうか?」

 

 連結通路から優雅に顔を出したエルザが、調律杖の先端を弄びながら、赤い瞳を妖しく明滅させた。

 

 完全に気圧が管理された車内の中で、真祖である彼女の魔力は一滴の目減りもなく、いつでも世界を調律できる満床の状態にある。

 

「……却下だ、エルザ。暴走するエネルギーを魔力によって外部から急激に冷却すれば、熱応力の不均等により構造体がガラスのように爆砕する。二次災害の規模が拡大するだけだ。……最適解ではない」

 

 カイトは感情の起伏がない声で淡々と却下すると、四輪駆動車のドアを開け、汚れ一つないジャージの裾を揺らしながら外へと降り立った。

 

 暴走する制御陣から放たれる熱風が神殿内に渦巻いているが、カイトはその冷徹な歩みを一切緩めることなく、懐の財布から輝く「金貨数枚」を静かに取り出した。

 

 そのまま、赤黒い光を放つ空間へとその確かな財貨を提示する。

 

「……等価交換」

 

 提示したお金の価値と引き換えに、カイトの知識にある現代の物品をそのまま具現化し、世界の物理法則を上書きする絶対の能力。

 

 捧げられた金貨が、まばゆい光の粒子となって空間で音もなく消滅していく。

 

 それと引き換えに、カイトの正面の空間に具現化されたのは、伝説の武器でも大魔法の触媒でもない。

 

 現代の地球において、あらゆる一般家庭の玄関口や配電盤の奥に必ず設置されている、ごく普通のプラスチックと金属でできた小さな保安部品――『家庭用配線用遮断器(安全ブレーカー)』の四角い機体だった。

 

『な、何だそれは……!? このような破滅の危機に、お前は一体何を呼び出したというのだ……っ!?』

 

 最高導師が涙目で絶叫するが、カイトはそれを完全に無視した。

 

「……固有スキル『重力操作』、同時展開。エネルギー流の経路を再定義」

 

 カイトは無表情のまま右手をかざした。

 

 具現化された現代の安全ブレーカーを制御陣の動力供給ラインの隙間へと配置し、その周囲の空間の重力ベクトルを細微に歪めたのだ。

 大霊峰から制御陣へと流れ込む、目に見えない莫大な魔力の奔流。その流れを重力制御によって強引にねじ曲げ、すべてブレーカーの「内部回路」を経由するように、その流路を強制的に上書きした。

 

 カイトの狙いは、過剰なエネルギーを破壊することではない。

 現代の電気工学が誇る「一定以上の負荷がかかったら回路を自動で遮断する」という論理そのものを、異世界の古代の魔力流へとそのまま適用することだった。

 

 カイトがブレーカーの小さな黒いレバーを「ON」の位置へとカチリと跳ね上げた、その瞬間だった。

 

 ――カチッ。

 

 小さな、しかし決定的な機械音が神殿内に響き渡る。

 

 過剰な魔力流がブレーカーの内部を通過した瞬間、現代の精密なバイメタル構造がその「過電流(過剰魔力)」を正確に検知。次の瞬間、レバーが自動的に「トリップ(遮断)」の位置へと、パチンと激しい音を立てて弾け飛んだ。

 

 シュウゥゥゥゥン……。

 

 突如として、あれほど狂乱していた巨大な気流制御陣の赤黒い光が、一瞬にしてスーッと退いていった。

 

 大霊峰から流れ込んでいた過剰なエネルギーが、ブレーカーの遮断論理によって完璧に「安全な一定の流量」へと制限され、余剰分が周囲の地脈へと安全にバイパスされたのだ。

 

 制御陣の自転速度は徐々に安定した回転へと落ち着き、都市の浮揚に必要な最低限の出力だけを維持する、最も健全な状態へと最適化された。

 

 都市の崩壊を告げていた地鳴りは完全に消え去り、神殿内には心地よい穏やかなそよ風だけが静かに吹き抜けていく。

 下界を脅かしていた巨大な竜巻のバグが、ただの家庭用ブレーカーの応用によって、完璧にデバッグされた瞬間だった。

 

『な……なな、何が起こったのだ……!? 我が都市の、世界を滅ぼしかねなかった古代の暴走が、あの小さな鉄のレバーが跳ね上がっただけで、完全に静まり返ったというのか……っ!?』

 

 最大級の環境不備を、ただの日常部品の論理によって理詰めで完璧に解決された最高導師は、あまりの恐天動地に開いた口が塞がらなくなり、そのまま大理石の床へと力なくへたり込んでしまった。

 

「わあぁぁ……! カイト様、すごいです! あんなに怒っていた丸いおもちゃが、一瞬でとっても静かになりました! お外の風も、すごく優しくて気持ちいいです!」

 

 リアが窓枠から身を乗り出し、嬉しそうに尻尾をブンブンと振って大歓声を上げた。

 

「ふふ、本当に貴方の手際はどこまでも鮮やかで容赦がないわね、カイト。世界を揺るがす古代の暴走すら、ただの家庭の電気の使いすぎと同じように片付けてしまうんだから。あの小さな四角い箱の論理には、この世界の賢者たちの知識も形無しだわ」

 

 エルザが可笑しそうにクスクスと笑い、本革のソファに深く背を預けて冷たいジュースを喉に流し込んだ。

 

「……気流制御インフラの適正化、および天空都市の環境デバッグ作業を完了。これより、本領域における実地研修の全工程を終了し、次の構造不備の探索へと移行する」

 

 カイトは表情一つ変えずに汚れ一つないジャージの袖を正すと、再び四輪駆動車の運転席へと乗り込み、滑らかに魔石エンジンを始動させた。

 

 世界のバランスをまた一つ塗り替えた漆黒の移動要塞は、驚天動地から歓喜、そして深い畏怖へと包まれる天空の都市を後にし、次なる世界のバグをデバッグするため、静かに、そして力強く、新たな地平へと向かってその車体を滑らせていくのだった。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

もしこの「ジャージ管理者の等価交換ファンタジー」を面白いと思ってくださったら、ぜひ評価の「星」やブックマークで応援していただけると、カイトの魔力と作者のモチベーションがリペアされます!

よろしくお願いいたします。

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