第195話:均質化の完了と、新たなシステム構築
不落を誇った黒鉄の城門が紙屑のように圧縮され、帝都『ザザード・ガルド』の中央大通りは、信じがたい静寂に包まれていた。
左右に並ぶ石造りの軍事施設や住居からは、無数の悪魔族の市民や兵士たちが、窓の隙間から怯えた目で見つめている。彼らの視線の先にあるのは、衣服に汚れ一つない漆黒のジャージを纏ったカイトが運転する、謎の四輪駆動車と高級キャンピングトレーラーだ。
襲いかかる弩砲も業火もすべて無力化し、無傷のまま中枢へと進むその姿は、悪魔たちにとって神話の災厄そのものだった。
「……判定。総司令部庁舎の正面に到達。これより、意思決定インフラ(上層部)の監査、および均質化作業を開始する」
カイトは庁舎の重厚な前庭に車を滑らかに停車させ、静かに魔石エンジンをカットした。
連結されたトレーラーのエアコンディショナーが、プシューと規則正しい排気音を立てて車高を安定させる。車内は外界の血生臭い空気とは無縁の、快適な二十四度を保ち続けていた。
「カイト様、あの一番大きな建物の中に、ガル・ラサームに悪い兵隊さんを送り込んだボスがいるんですね。……よし、私が入り口のドアを片付けてきます!」
助手席から降り立ったリアが、ジャージの袖を力強く捲り上げ、ピンと立てた耳を庁舎の奥へと向けた。
最高級のベッドで完璧な睡眠をとり続けた彼女の身体能力は、今や一国の最高防衛結界すら素手で引き裂くほどの領域に達している。
「ふふ、リア、そんなに力まなくてもいいわよ。中にいる連中、恐怖で全員の魔力が消えかかっているもの。カイト、あの腰抜けたちの頭脳を、私の調律杖でまとめて初期化してあげましょうか?」
連結通路から優雅に姿を現したエルザが、調律杖の先端を弄びながら、赤い瞳を妖しく明滅させた。
完璧に管理された環境で魔力を万全に蓄えた真祖の威圧感だけで、庁舎を囲んでいた近衛兵たちが次々と武器を取り落とし、その場に崩れ落ちていく。
「……否。エルザ、精神破壊を伴う広域調律は、戦後の統治インフラの引き継ぎにおいて非効率だ。……リア、開門を」
「はい!」
リアが庁舎の巨大な黒鉄の扉に軽く手を触れた瞬間、ズドォォォンという風圧と共に、扉が内側の壁ごと一瞬で吹き飛んだ。
カイトは衣服の塵を一つ払うような仕草で、開け放たれた無防備な通路を淡々と進んでいく。
最奥の作戦会議室の扉をリアが再び蹴り飛ばすと、そこには円卓を囲んだまま、あまりの恐怖に顔を青ざめさせ、ガタガタと震えている総司令官と将軍たちの姿があった。
「ひ、ひぃっ……! ば、化け物め……! 我が帝国の誇る軍勢を、防壁を、すべて玩具のように……!」
「……判定。バル・ザザード帝国上層部。お前たちの行った周辺領域への軍事侵略行為、および情報統制は、この大陸における経済活動および生存インフラの著しい『不備』である」
カイトはジャージのポケットに両手を戻したまま、冷徹に言い放った。
「な、何を言うか! 我ら悪魔族が世界を統治することこそが至高の論理――」
「……却下。お前たちの論理は持続可能性が著しく低い。よって、これより当該国家の意思決定システムを均質化する。……重力操作」
カイトが軽く指先を翻した瞬間、円卓を囲んでいた総司令官と十数人の将軍たちの頭上に、局所的な高重力場がピンポイントで投射された。
ドガァン!!!
悲鳴を上げる暇すらなく、帝国の上層部全員が、椅子ごと床の石畳へと叩き潰され、完璧に身動きを封じられた。衣服や室内の重要書類、帝国の国勢データには塵一つの傷もつけない、完璧な質量制御。
「……上層部の無力化を完了。これより暫定統治プロトコルに移行。帝国の軍事インフラを解体し、近隣諸国との交易インフラへと再構築する。不備は解消された」
カイトは汚れ一つないジャージの袖を正し、無表情のまま、機能停止した作戦室を後にした。
ガル・ラサームを脅かした巨大な軍事帝国は、カイトという圧倒的な論理の前で、ただの一日で行使能力をデバッグされ、新たな均質化の波へと飲み込まれていった。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
もしこの「ジャージ管理者の等価交換ファンタジー」を面白いと思ってくださったら、ぜひ評価の「星」やブックマークで応援していただけると、カイトの魔力と作者のモチベーションがリペアされます!
よろしくお願いいたします。




