第193話:鉄血の進撃と、帝都の崩壊前夜
軍用道路を塞いでいた、地獄の巨獣に引かせた帝国の魔導装甲巨馬車。
それが自らの放った魔導砲の熱線をそのまま反射され、一瞬にして爆発炎上し、鉄屑と化してから数時間が経過していた。
カイトの四輪駆動車とキャンピングトレーラーは、燃え盛る残骸の脇を一切速度を落とさずに通り抜け、軍国領のさらに深部へと直進を続けていた。
「……判定。前方の路面状況に乱れなし。目標である帝都『ザザード・ガルド』の外郭門まで、残り約四十キロ。到達予測時間は三十二分」
カイトは衣服に汚れ一つない漆黒のジャージを纏ったまま、無表情でハンドルを握っていた。
外の世界では、国境の結界を破られ、自慢の移動要塞まで瞬殺された悪魔族の守備兵たちが、あちこちで恐天動地して敗走していく姿がバックミラーに映っていた。だが、車内はエアコンディショナーの心地よい冷気によって常に二十四度に保たれ、完全に外界の狂乱から隔離されている。
「カイト様、お外でトカゲ……じゃなくて、角の生えた悪魔の人たちが、みんな青い顔をして逃げていきます。私たちの新しいお家を見て、すっごくビックリしているみたいです!」
助手席のリアが、ジャージの袖をパタパタと揺らしながら、ピンと立てた耳を窓の外へと向けた。
トレーラー内の最高級ベッドで連日完璧な睡眠をとっている彼女の肉体は、長距離移動の疲労を一切寄せ付けず、常に最高出力のコンディションを維持している。
「ふふ、当然だわ。彼らにとって、自分たちの誇る軍事インフラが、ただの『作業』として淡々と片付けられていくなんて、想像もしていなかったでしょうからね。ねえカイト、帝都の真ん中にある総司令部とやらについたら、今度こそ私の魔力を少しは使わせてくれるかしら?」
本革のローソファに深く腰掛け、冷えたジュースを優雅に口に運んでいたエルザが、調律杖を弄びながら赤い瞳を妖しく明滅させた。
完全に日差しを遮断されたラグジュアリーな車内空間は、吸血鬼である彼女の真祖としての魔力を極限まで高め、いつでも帝都ごと敵を調律できる状態にしていた。
「……否。帝都の物理的な全壊は、戦後における居住領域の再構築コストを増大させる。非論理的だ。……均質化は、あくまで司令部の意思決定インフラ(上層部)のみに限定する」
カイトが冷徹に告げた、その時だった。
フロントガラスの向こう、赤茶けた大地の果てに、ついに悪魔族の軍事帝国『バル・ザザード』の首都、黒鉄の巨城『ザザード・ガルド』の不気味な威容が姿を現した。
城壁の上には、数千人を超える悪魔族の正規兵がひしめき、迎撃のための魔導弓や弩砲の照準を、一斉にカイトたちの車両へと定めている。
――だが、その総司令部の内部は、すでに完全に統制を失い、底なしのパニックに陥っていた。
「報告します! 国境守備隊、全滅! 緊急展開した第三装甲巨馬車連隊も、交戦時間わずか零秒で完全沈黙いたしました!」
「な……何だと!? 化け物め、一体どんな大魔法を使っているというのだ!」
作戦机を叩き、総司令官が脂汗を流して絶叫する。
彼らがどれだけ大軍を動かそうとも、どれだけ頑強な防壁を築こうとも、カイトはそのすべてを「世界の不備」として等価交換の計算式で冷徹に処理し、何一つコンディションを落とすことなく、最新鋭のトレーラーを引いて目の前までやってきたのだ。
『全軍、防壁を死守せよ! 奴らが門に近づいた瞬間、すべての魔力を解き放って圧殺するのだ――』
帝都全体の悪魔たちが、死に物狂いの殺意(悪意)を膨らませていく。
しかし、カイトは衣服に塵一つつけないジャージの袖を静かに正すと、その黒鉄の城門に向けて、車の速度を一切落とすことなく、ただのルーティンワークとして真っ直ぐに突入を開始した。
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