第156話:砂底の捕食者
ズズズ……、地響きと共に、四輪駆動車の周囲の砂丘が激しく波打ち始めた。
サラサラとした砂の斜面が生き物のように陥没し、車体がわずかに傾く。
「カイト様! 車のすぐ右側の砂の中に、何かがいます! すごく大きいです!」
助手席のリアが、鋭い耳をピクリと動かして窓の外を指差した。
彼女の視線の先、砂の波を割りながら現れたのは、全身がザラついた黄土色の鱗で覆われた、巨大なトカゲのような魔獣『サンド・ダイバー』だった。
砂漠の熱気と乾燥に適応し、砂の中を泳ぐように移動して獲物を襲う、この地域の凶暴な捕食者だ。
「……判定。こちらのエンジン音と微振動を感知して集まってきたな。合計三匹。……不備の排除を開始する」
カイトはギアシフトをニュートラルに入れ、静かにドアを開けて外に出た。
吹き荒れる熱風がジャージの裾を揺らすが、自動適応機能のおかげでカイトの呼吸が乱れることはない。
「ちょっとカイト、車の中にいた方が安全じゃないの!? あんな大きなトカゲ、まともに相手にするなんて正気の沙汰じゃないわよ!」
後部座席からエルザが窓を開けて叫ぶ。
「……車内に残れば、足回りを噛み砕かれて完全に身動きが取れなくなる。効率が悪い。……リア、身体強化。右側の個体の注意を引け。反転する瞬間を狙え」
「了解です、カイト様! ……そこのトカゲ、こっちですよ!」
リアが車外へと飛び出し、身体強化の魔力をまとって砂の上を信じられない軽さで疾走した。
砂を蹴り上げる彼女の動きに惑わされ、一匹のサンド・ダイバーが長い尾を激しくくねらせてリアへと襲いかかる。
「私の前で砂を巻き上げないでって言ってるでしょう……! 燃え尽きなさい!」
エルザが車内から調律杖を突き出し、リアを追うトカゲの進行方向へ正確に火球を放った。
激しい爆炎が砂を爆発させ、視界を奪われたトカゲが苦しげに頭を振って動きを止める。
「……そこだ。局所集塵、出力最大」
カイトは右手を掲げ、新しく獲得したばかりの初級魔法を発動した。
通常なら塵を払うだけの微弱な風の魔法。だが、カイトはそれを、トカゲが巻き上げた周囲の「大量の細かい砂粒子」に向けてピンポイントで指向させた。
ゴオォォォッ!
カイトの指先から放たれた風の渦が、周囲の砂を急激に巻き込み、局所的な「砂嵐の弾丸」へと変貌する。
不純物を極限まで集約された砂の塊が、動きを止めていたサンド・ダイバーの無防備な眼球へと正確に突き刺さった。
ギシャァァァァッ!
視界を完全に潰された魔獣が、激痛に悶えながら砂の上でのたうち回る。
「……リア、仕留めろ」
「はいっ!」
リアは空中へ高く跳躍し、落下の勢いをすべて双牙の柄へと乗せ、トカゲの眉間へと強烈な打撃を叩き込んだ。
ズドン! という鈍い衝撃音と共に、巨大なトカゲの動きがピタリと止まり、そのまま砂の中へと沈んでいく。
「……残り二匹。判定、戦意喪失による逃亡確率、八十八パーセント」
カイトの予想通り、同族が一瞬で仕留められたのを見た残りの二匹は、砂を激しく跳ね上げながら、慌てて砂海の奥へと逃げ去っていった。
「……ふぅ。新しい魔法、そんな風に使うなんてね。ただの掃除用かと思ってたわよ」
エルザが調律杖を収め、呆れたようにカイトを見つめる。
「……手元にあるリソースをどう組み合わせるかだ。威力の高い魔法を覚える必要はない」
カイトは汚れ一つないジャージの袖をパッパと払い、再び運転席へと乗り込んだ。
限られた予算と最小限の魔法。それらを理詰めで運用し、砂漠の脅威をまた一つ排除した三人は、さらに奥へと車を走らせる。
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