第15話:細工師の工房と、未知の「筒」
情報屋に教えられた街の最果て、煤にまみれた長屋の一角にその工房はあった。
「……細工師のガラムはここにいるか?」
カイトが重い扉を叩くと、中から機嫌の悪そうな、片目を潰した老ドワーフが顔を出した。
酒の匂いと鉄の焼ける匂いが混じり合う空間。そこには、芸術品のような装飾品ではなく、精密なバネや歯車が転がっていた。
「……冒険者が何の用だ。魔法の剣なら他を当たりな、俺は死んだ鉄にしか興味はねえ」
「死んだ鉄で構わない。正確に『円筒』を削ってほしいだけだ」
カイトは、用意していた図面を机に置いた。
それは、厚みのある鉄の筒と、その内部を滑る精密な円柱。そして、それらを固定するフレームの設計図だ。
ガラムは鼻で笑いながら図面を手に取ったが、その目が次第に鋭くなっていく。
「……なんだこれは。弓でもなければ、投石器でもねえ。この小さな空洞で何をさせるつもりだ?」
「そこに『爆発』を閉じ込める。一方向だけに力を逃がせば、中にある鉄球は音を置き去りにして飛んでいくはずだ」
「……正気か。そんな圧力をかければ、筒ごと弾け飛んで貴様の腕が消し飛ぶぞ」
「だから、あんたの技術がいる。この厚み、この滑らかさだ。……対価は銀貨5枚でどうだ?」
ガラムはしばらく無言でカイトと図面を交互に見つめていたが、やがて太い指で銀貨をひっ掴んだ。
「……面白え。魔法使いの理屈じゃねえ、物理の限界に挑むってんなら付き合ってやる。三日後に来な」
カイトは工房を後にし、夕闇に染まる街を歩いた。
魔法を「火球」として放てば、弾道は遅く、コストも高い。
だが、火魔法の「膨張」だけを火薬の代わりに使い、鉄の弾丸を弾き出す「銃」の概念を持ち込めば、消費する魔力は最小限で済む。
【検知:ガラムからの「職人としての執着」:+40 pt】
歩いていると、不意に背後に冷たい殺気が走った。
振り返るまでもない。
廃鉱山の一件以来、カイトを監視する「悪意」の質が変わっていた。
これまでは小銭稼ぎのならず者だったが、今は明確な「プロ」の匂いがする。
「(……轟雷の牙、本腰を入れてきたか。あるいは、俺のジャージを本気で『資源』として狙い始めたか)」
【検知:複数の対象からの「組織的な殺意」:+150 evil】
カイトはあえて人気の少ない広場へと足を向け、新しく習得した「空間庫」の感覚を確かめた。
指先一つで、亜空間から投げナイフが滑り出す。
「……三日後、あの『筒』が完成するまで、あんたたちの悪意は大事に貯金させてもらうよ」
カイトは暗がりの中で、ジャージのポケットに手を突っ込んだまま薄く笑った。
物理と魔法の融合。
その最初の実験体として、背後の刺客たちはこれ以上ない「素材」だった。
【現在蓄積リソース:250 pt(感謝) / 180 pt(悪意:蓄積中)】
【所持金:銀貨 11枚】
【製作依頼中:試作型魔導銃身】




