第13話:等価交換の処刑場
広大な採掘場跡を、ゴブリンたちの不快な哄笑と、檻の中から漏れる絶望の啜り泣きが満たしていた。
中央に鎮座するゴブリン・ロードは、奪ったワインをラッパ飲みしながら、怯える人間たちを品定めするように眺めている。その瞳には、知性ゆえの邪悪な悦びが宿っていた。
【検知:複数の対象からの「死への恐怖」:+400 pt(潜在的感謝)】
【検知:ゴブリン・ロードの「優越感」:+100 evil】
「……これだけ『悪意』のガソリンがあれば、派手な演出も可能か」
カイトは暗闇の中で、静かに右手を突き出した。
蓄積された悪意エネルギーを、一時的な現象へと変換する。
「悪意による一時創造――『魔力収束・掌底』」
【創造完了:悪意 450 pt を消費――一時的な衝撃変換機能を右掌に付与】
カイトの右掌が、青白い放電のような光を放ち始めた。
それは魔法というより、過負荷をかけた機械のような危うい輝きだ。
「誰だッ!? そこに誰かいるのか!」
異変に気付いたロードが叫ぶ。
だが、その声が響き渡るよりも速く、カイトは「風走」と「身体強化」を全開にして地面を蹴った。
ドォォォォンッ!
カイトが踏み込んだ地点の岩盤が、衝撃でクモの巣状に割れる。
紺色のジャージが残像となり、群がるゴブリンたちの間を縫うように疾走した。
「ギ、ギギャッ!?」
反応できたゴブリンの首が、カイトの通過と共に不自然な方向に折れる。
武器を抜く暇すら与えない。カイトの狙いは、中央で驚愕に顔を歪ませるリーダーただ一人。
「貴様ぁ! ただの人間がぁぁ!」
ロードが傍らの大剣を手に取り、なぎ払おうとする。
しかし、カイトはその大剣の腹を左手で軽く叩き、最小限の動きで懐に潜り込んだ。
「悪いな。あんたの言葉は、俺のシステムじゃ『ノイズ』にしか変換されないんだ」
カイトの右掌が、ゴブリン・ロードの分厚い腹部に吸い付くように押し当てられた。
蓄積された悪意のすべてが、一瞬で「破壊的な衝撃」へと反転する。
「――散れ」
ゼロ距離で解放されたマナ・インパクトが、ロードの巨体を内側から粉砕した。
ドォッという重低音と共に、ゴブリン・ロードは背後の岩壁まで吹き飛び、その衝撃で鉱山の天井から土砂が降り注ぐ。
【検知:ゴブリン・ロードの沈黙を確認】
【検知:周囲のゴブリンたちの「戦意喪失」:+80 evil】
リーダーを一撃で屠られた群れは、パニックに陥り四散していった。
カイトはそれを追うことはせず、ゆっくりと檻の方へと歩み寄った。
右掌の光は消え、ジャージの袖は今の衝撃に耐えきれず、わずかに焦げた匂いをさせている。
「……助けに来た。とは言わないが、あんたたちの『恐怖』は、これでおしまいだ」
カイトが「リペア」を使い、檻の錠前を構造から破壊する。
中から転がり出てきた商人や護衛たちが、カイトの足元に縋り付いて泣き崩れた。
「あ、ありがとうございます……! ありがとうございます、英雄様……!」
「ああ、神様、カイト様……! 命の恩人だ……!」
【検知:救出された人々からの「爆発的な感謝」:+1200 pt】
カイトの視界に、かつてないほど巨大な数字が躍った。
命を救われた者たちが吐き出す、純度の高いリソース。
一時的な「悪意」を使い捨てて、永続的な「感謝」を大量に買い取る。
これがカイトの選んだ、最も効率的な無双の形。
「(1200……。これなら、ついに『あれ』に手が届くか)」
カイトは狂喜する人々をよそに、淡々とシステムメニューの深層を見つめていた。
ジャージ姿の男の背中は、もはや一人の冒険者ではなく、世界の理を書き換える「執行者」の威厳を帯び始めていた。
【現在蓄積リソース:1400 pt(感謝) / 0 pt(悪意:消費済み)】
【所持金:銀貨 17枚】
【装備:鉄の投げナイフ×5】




