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最強公女の身代わり結婚  作者: 御桜真
第三章 破壊と調和と誓いの結婚式
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44.不穏の影

 無事に結婚式を終え、再びルヴィンのエスコートで大聖堂を出る。


 晴れ上がった空の元、神殿騎士が居並び、その先に皇宮騎士団が並んで、二人を出迎えた。更には、イゾルデの騎士団が控えている。きらびやかな鎧が精悍な眺めだ。


 これだけの所属の違う騎士団がこうして列立する姿を見ることは、この先あるのだろか。それも戦地などではなく、結婚式という平和の場で。

 これが今日限りのものとならないようにしなければならない。


 大聖堂で清浄な気をうけたおかげか、聖杯で聖水をいただいたおかげか、ルヴィンからの浄化の石のおかげか、この帝都に来てから一番と言って良いほど、体は軽く意識が遠くまで行き届く。懸念していた事態を乗り越え、晴れやかな気分だった。


 騎士団に見送られた先、先程皇宮から乗ってきた馬車が待っていた。

 まっすぐそちらへ向けて歩き出す。



 唐突に、黒い気配が感じられた。

 エレノアは思わず気配の元をたどる。居並ぶ騎士たちの中のひとりと目があった。エレノアを戦場まで迎えに来た騎士団長だ。白銀の鎧に白いマントを纏う、ひときわきらびやかな姿の男は、不敵に笑っている。


 ――なんだ?

 ああいう顔なのかもしれないが、それにしても、違和感が拭えない。


 視線を感じて振り仰ぐと、ルヴィンと目があった。彼もまた引っかかりを覚えたのだろう。

 気付いたのが、不穏な気配、だけならいいのだが。


 エレノアは慌てて顔を伏せる。ベールの宝石がきらりと揺れた。目があった理由を深く考えないでいてくれればいいのだが。

 ――嫌な予感がする。


 護衛騎士であるクリフォードは、馬に乗ってルヴィン付きの騎士と共に、この馬車の後ろに従うことになっている。

 エレノアは馬車の前で、側に控えるクリフォードを見遣る。警戒を怠るな。

 恐らくクリフォードも違和感に気づいているだろう。軽く頷いた。


 ルヴィンと共に、馬車に乗り込んだ。帝都の大通りには、帝国民が居並び、皇太子の結婚を祝い、口々に歓声を上げている。


 行列の先、そして人々の後ろ、あちらこちらにどす黒い気配を感じる。

 これは、そうだ。帝都へ向かう途中に、森の中で感じた気配だ。


 ――――魔獣が現れる、その前に。

 しかしここは帝都だ。月影の冠(ルナクラウナ)に守られた、皇帝の座す帝都だ。あり得ないことだ。


 エレノアはにこやかに民衆へ手を振りながら、不穏な考えを否定した。

 万が一にも各国の主長が集い、民衆が押し寄せるこんな場所で、問題が起きたなら。帝国内だけの問題ではすまなくなる。ヴォルネスが備えていないわけがない。帝国に限らず、主賓の国で何かを狙う輩がいようとも、それを防がねばならない。不祥事など起きるわけがない。


 だが。再びそれを否定する。エレノアは自分の感覚を信じている。


 いや、信じるのではない、これは指先で物を感じるのと同じで、疑いようのない物事だ。不穏を覆い隠そうと、事実をひるがえすのは愚かなことだ。


 どのような場所だろうと、起こることは起こる。それを引き起こそうとする者がいる限り。


「ルヴィン殿」

 アデラインを装いつつ、どう伝えるべきか。思案しながらエレノアは、ルヴィンに呼びかける。

 いや、何か言う必要も無い。恐らく彼も気付いているはずだ。



 再び目が合う。その瞬間、間近な路地で黒煙が弾けた。

 振り返った先で、耳をつんざく咆哮が轟く。悲鳴が響き渡り、ドッと人が動く気配がする。

 魔力の歪みが発生しているのは感じられるが、まだ何も見えない。

 だがこれは、間違いない。


「魔獣が出た!」

 人々が口々に叫び、路地から大通りへ飛び出してきた。行列の騎士達が馬を繰り、慌ててそれを押し戻そうとする。

 馬車を引く馬が怯えて足を蹴り上げ、行列が止まる。馬車が大きく揺れた。


「アデライン殿、掴まってください!」

 急いでルヴィンが差し出す手に、おとなしく捕まった。


 魔獣は北部山脈で発生するもの。

 ここまでの道中、帝国の内部で襲われたのが、まずおかしかった。だがそれも絶対にないことではない。討伐されずに下ってきた魔獣や、帝国内で魔力の歪みが発生してしまった場合。


 だがしかし、ここは帝都、絶対の防壁に守られた場所だ。魔獣が押し寄せても簡単に破ることなど出来ない。

 何らかの方法で魔獣を呼び寄せる者がいなければ。


「なんてことをする」

 エレノアは思わずうめいた。

 渦巻く黒煙の中に、こちらへ向かってくる赤い炎も見える。


「オグラスか……!」

 ルヴィンが声を上げる。

 森での野営時に襲ってきた魔獣だ。体が炎に包まれ、夜襲には向かないと思った魔獣だが、やはり適材適所というものがある。


 操って街を襲わせるには、特に向いている魔獣だ。体からあふれる炎、呼気に含まれる毒。

 大勢の人間の中に放り込めば、効果は絶大だった。


 馬上の騎士達が迎撃に向かおうとするが、あふれてくる人の群れに押し戻される。

 そこへ、炎を纏った魔獣が飛び出してきた。人々は悲鳴を上げながらなぎ倒され、炎に焼かれ、また毒に倒れる。


 皮膚のただれた魔獣は、一足に大通りを飛び超え、馬車に飛びかかってきた。

 魔獣の赤い目が光る。


 エレノアをかばうルヴィンの眼前で、魔獣の爪が止まる。向かってきた勢いのまま、後ろに弾き飛ばされた。

 地面に転がり、すぐさま起き上がると、ひときわ高く咆哮をあげる。

 今度はまた別の方へ牙を向けた。人の群れの中へ突っ込んでいく。


 騎士も神官も何をしている。

 エレノアは歯がゆい思いで、逃げ惑う人の群れに苦慮している皇宮騎士団を見る。本気で対処するつもりがあるのか。


「魔獣が皇太子を避けたぞ!」

 誰かが声を上げた。



いつもリアクション、評価、ブックマークありがとうございます!

いつの間にか各話のナンバリングし忘れてて、つけなおしたつもりがズレてしまっていました……。

急いで修整したのですが、まぎらわしくてすみません。

今回44話です!!

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