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最強公女の身代わり結婚  作者: 御桜真
第三章 破壊と調和と誓いの結婚式
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43.破壊と調和と誓いの結婚式

「こ、これは……! そんな馬鹿な。一体何をした!」

 サイモン大神官の声が反響する。厳かな皇家の結婚式にはあり得ない発言だった。


 エレノアはショックを受けた顔で、サイモンを見返した。その手からパラパラと聖杯の偽物のかけらがこぼれ落ちる。


「まさか、わたくしをお疑いになるのですか。わたくしは、聖杯の神秘を確かめるため、手にしただけです」

 震える手を押さえて胸に当てた。体から力が抜け、ふらりと傾ぐ。――病弱な皇女がショックを受け、倒れかけた。 

 何が起こったのか分からず呆気にとられていたルヴィンが、慌ててエレノアを支える。


「怪我はありませんか。これは一体どうしたことなのです」

 サイモン大神官を強く見据えた。サイモンがたじろぐ。


「不吉だわ」

 列席者からひときわ高く声が上がった。皇后だろう。

 確かに、結婚式で誓いに用いられる聖物が壊れるなど、不吉でしかない。


 偽物を仕込んだ張本人は、それはそれでこの機に乗じるつもりのようだ。

 確かにたとえ偽物でも、聖物を模したものが壊れることは不吉だ。だが、血統云々で問題が起こるよりマシだ。


 教皇の側に控えていたリュシエルが、素知らぬ顔で告げた。


「聖杯はソードマスターが剣を振ろうとも、壊れたりはしません。ましてやか弱き乙女の手で壊れるようなものではありません。何かの間違いでは」

 またひとこと余計だ。エレノアが内心ため息をつく横で、ルヴィンに睨まれたサイモンが動揺の声を上げる。


「で、ですが……!」

 穏やかな笑みをたたえたリュシエルはサイモンのそばに歩いていくと、壊れた聖杯の破片を見た。わざとらしいくらい驚いてみせる。


「聖下、こちらは儀礼用のもので、聖杯ではないようです」

 聖杯は唯一無二の聖物として保管され、簡単に持ち出すことはできない。だから普段は代わりに儀礼用のものを、神殿にて祝福を授けるときなどに使用する。


 これも教皇の祝福を受けた聖物に違いはない。

 本物でなくとも、聖杯を模して作られた、各地の儀礼に使われるための重要な物だ。

 リュシエルはサイモンに微笑みかけた。


「猊下はお間違えになったのでしょう」

 企みが露見するよりも、間違えたのだとするのがマシだと瞬時に考えたに違いない。サイモンはひれ伏さんばかりに教皇に頭を下げた。


「も、申し訳ありません。急ぎ正しきものを持ってまいります!」

 あわただしく大神官が去っていく。皇后に何を約束されたのか知らないが、彼の教会内での立場ももはや終わりだろう。


 もし本物でなかったとしても、なぜ突然壊れたのか。それはやはり不吉ではないのか。

 ざわめきの声は静まることがない。


 エレノアは両手をあわせて握りしめたまま、祈るように教皇を見上げた。ルヴィンが肩を支えてくれている。


「聖下、これは始祖神と女神様の思し召しに違いありません」

 戦場を駆け回り部下へ指令を飛ばすエレノアの声は、とてもよく通る。騒々しい人々の中でも、強すぎない響きで届いた。

 だが弱々しさを失ってはいけない。慎重に発言する。


「我々のこれまでの過ちを壊して、新しい道を築くようにとご啓示くださったのです」

 大聖堂を揺らしていた声が少しずつ静まっていく。


 教皇は静かに状況を見守っていた。エレノアが無茶で無謀であっても、無駄な行いをしないことをわかってくれているはずだ。何かの企みを阻止したのを、きっと察してくれている。ましてや、偽物を用意したのはエレノアではない。

 寄り添う二人を見て、教皇は小さく微笑んだ。


「そうですね。まさに今のお二人の姿が、神々の望んだものでしょう」

 厳かに告げる教皇の声で、大聖堂は再び静寂に包まれた。慌ただしくサイモンが戻ってくる。


「それでは、女神エオディアの子アデライン。聖杯の神秘を再び確かめなさい」

 サイモンが捧げ持つ本物の聖杯を、リュシエルが受け取った。さりげなく役目を奪い取ったのだろう。こういうところが抜け目ない。


 エレノアはルヴィンの手を離れ、再び教皇の前にひざまずく。

 そのエレノアの元にやってきたリュシエルは、大神官らしく楚々とした佇まいで微笑んでいるが、エレノアには内心面白がっているのが透けてみえた。

 寄り添うようにエレノアの手を取って、にんまりと笑う。


「まさかぶん殴らずに、握りつぶすとは思いませんでした」

 聖杯を手渡しながら、そっと耳元で囁いてくる。今わざわざ言わなくてもいいだろう。エレノアは微笑み、黙殺した。


 本物の聖杯もやはり、とても軽い。

 先程の物と同じ装飾が施され、ひと目では真贋が分からない。

 本物を見たことがある人間がほとんどいないのだから、これではまた偽物を渡されても分からないところだ。


 だが今手にしたものは、神官の施す浄化のような、優しいゆらぎをまとっているように見えた。じんわりと暖かいような気がする。

 ルヴィンも同じように聖杯を確かめてから、血統証明の儀へと移った。


 本来教会での出血沙汰など好ましくないもの。

 刃を抜くのははばかられるため、血統証明のための流血も最小限とされた。

 補佐をする神官がエレノアの指先を針で刺し、リュシエルの持つ聖杯にひたす。

 聖杯の水は淡い光を放ち、皇家の血筋の正当性が証明された。そしてそれは、ルヴィンも同様だった。

 そして二人は誓いの言葉を述べる。


「全ての始まりに立つ主神ゼアと、双子の女神に誓う。この方を守り、導き、共に生きることを」

 今度は聖水の注がれた聖杯が運ばれてくる。一口ずつ聖杯の水を分け合うことで、この後の調和を誓った。

 教皇の前に立ち、結界の意味を込めた指輪を交換する。

 ルヴィンはその赤い苛烈な瞳で、穏やかにエレノアを見た。


 何かが起きたことは察しているだろう。

 だが苦笑気味に微笑み、そっとエレノアの肩に手を添える。


 触れるだけの口づけで、誓いを閉じ込めた。


お気に入り登録、リアクション、評価ありがとうございます。

また昨日更新をうっかりしておりました……!!

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