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最強公女の身代わり結婚  作者: 御桜真
第三章 破壊と調和と誓いの結婚式
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28.天恩の歪《ひず》み1

 気がついた時、エレノアは薄暗い部屋でベッドに横たわっていた。ふかふかのベッドだが、先ほどとは様相が違う。

 返り血を浴びていた体も清められ、着替えさせられている。メイザー夫人の手配だろうか。もう一度眠りたい衝動にかられたが、側に人の気配がして、なんとか抵抗する。


 そこにいたのは、メイザー夫人でも、クリフォードでもなかった。

 薄明かりに照らされた端整な顔に憂いをにじませ、そばに座っていたのはルヴィンだった。


「気づかれましたか」

 安堵したように言う彼は、心底心配していたように見える。意外な思いがして、つい言っていた。

「……お忙しいのでは」

 まさか、ずっとそばについていたのか。どれだけ意識を失っていたのか分からないが、今がまだ夜明け前だということは分かる。

 エレノアの言葉に、少し傷ついたような表情でルヴィンは言った。


「そのようなこと、おっしゃらないでください。倒れた婚約者の看病をする程度の人情はあるつもりです」

 そもそも、戦場での出会い頭が良くなかった。


 陰謀を避けるため、唐突に聖地インセクレムへ向かうなど強硬手段に出ようとするから、政治的な立場や政情を重視するものだと思っていた。

 そうでないにしろ、襲撃をうけつつようやく帰還した帝都で、彼がやらねばならないことは山のようにあるはずだった。


 エレノアはがらにもなく、少しばかり罰の悪い思いをしながら、体を起こした。慌ててルヴィンが支えようと手を伸ばし、少し躊躇って、結局背中を支えてくれる。

 力強い手に支えられ、エレノアがヘッドボードのクッションに身を預けると、彼はすぐに身を引いた。


「起き上がって平気なのですか?」

 まだ目は回るが、倒れる前より随分マシだ。体に力が入らないと言うこともない。

「わたくしは、どれほど眠っていましたか」

「ほんの数刻ほどです。もしやずっとお目覚めにならないのではないかと、心配しておりました」

 エレノアは胸をなで下ろした。

 倒れるなんて事、エレノア自身にも前代未聞だったが、何日も眠りこけていたわけではなさそうだ。

 エレノアがそんな事態に陥っては、同行してきた侍女たちを不安に陥れてしまう。


「こちらは……」

「ここは私の寝室です。急でしたので、安全に休んでいただける場所を他に用意できず……。ご不快でしたら申し訳ありません」

「いえ、お心遣いに感謝します。きっと旅の疲れでしょう。たいしたことはございません」

 エレノアは思わず目線を伏せる。


 いくら本調子でないとは言え、クリフォードやメイザー夫人など心許せる相手でもないルヴィンが側にいて、無意識に再び寝入ろうとしたのが、信じられなかった。それほどこの男からは、害意というものが少しも感じられなかった。

 何を言えばいいか惑い、アデラインのふりで応える。


「このように頼りない体で、皆さまにご迷惑をおかけしてしまうばかりですね。本当に申し訳なく、心苦しい限りです……」

「何をおっしゃっているのですか。そのようなことは何の問題もありません。今回のことは私の落ち度です」

 ルヴィンの落ち度であるのは確かだが、何よりも悪いのは、アデラインに暗殺者を放った相手だ。しかし彼は乞うように言った。


「例えどのように生まれついても、そのように生まれたことも、そのせいで苦しむことも、あなたの責任ではないはずです」

 ただ慰めるためだけの言葉とは思えない。真摯な色のある声に、エレノアは思わずルヴィンを見た。赤い目はまっすぐにエレノアを見ていた。

 エレノアが応えられずにいると、ルヴィンは言い募る。


「このように御身を危険にさらして言えることではないのですが、どうぞ私の元では、のびのびと過ごしてください」

 アデラインの、祖国での扱いを知っているのだろうか。侍女達が言っていたように、この国ならばアデラインはのびのびと過ごせたかも知れない。面倒な政争や暗殺騒ぎがなければ。

 しかし彼の言葉は、アデラインに向けてだけのものには思えなかった。

 ――どのように、生まれついたとしても。それは。


「それに今回のことは……魔力酔いではないですか」

 しかしルヴィンが続けた言葉に、エレノアは思わず殺気を出しかけた。拳を握り、静かに息をついて、気を落ち着ける。

 ルヴィンは間抜けではない。安易に殺気立っていては、アデラインであることを疑われる。


「……なぜ、そのように思われたのですか?」

 エレノアは慎重に尋ねた。

 ――体質というものはやっかいだ。

 この「神に愛された」強靱な肉体にも弱点はある。

 常人よりも、極端に魔力に弱い。


 これは公爵家の秘密で、皇帝すらも知らない。いつか、公爵家の力が脅威になったとき、万が一にも皇家と対立するようなことになったとき、弱点になりかねないからだ。

 しかしさすがに、戦地で近くにいたクリフォードには知られている。

 気安く見えて口の堅い片腕であるから、そこは心配していなかったし、彼は公爵夫人からも信頼が厚い。それは近くでエレノアをなんとか制御しているということへの信頼である気もしている。

 ルヴィンはエレノアの警戒を察しているようで、なだめるように微笑みながら答えた。


「アデライン殿はイゾルデの方なので、そのようなことがあるかもしれないとは思っていたのです。馬車でもあまりお加減がよく無さそうでしたので。オルディナスは特に魔力で強く守られた場所ですし、よりご不調になられるのではと密かに心配しておりました」

 気付いていたのか。


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