差し入れ
「ご馳走様・・・。」
カレーパスタを食べ終わった俺は、水切りが済んだであろう物体をビニール袋に入れ、臭いの封じ込めに成功した。
パスタの皿と炊飯器の内釜を洗う・・。うん、これで臭気とは縁が切れただろう。
そう言えば、炊飯器と格闘していた頃、外から色々な音が聞こえて来たな・・・。そうか、もとM1チャンピオンが来てたんだっけ・・・。
食器の片付けが終わった今では、外は静まり返っていた・・・。
「見に行けばよかったかな・・・。無いな。」
特に意味もなくTVの電源を入れる。
何の番組がやっているかは知らないが、気分を紛らわすために雑音が欲しかったのだ。
・・・もう、こんな時間だったか・・・。
あからさまで趣味の悪いバラエティー番組が流れている。客の笑い声が全部同じのやつだ。
心理学的に、笑い声が入っている方が面白く感じるらしい・・・。
面白くは無いが、ベッドにもたれながら缶ビールを飲む・・・。
学祭で、フランクフルトでも貰ってくれば良かったんだけどな。
ドンドンドン!!
扉を叩く音が聞こえる・・・。もう23時じゃないか・・・。一体だれが?
「はーい。空いてますよ?」
ドンドンドン!!
返事をしているのに扉が再び叩かれる。
まったく・・・。面倒な・・・。
立ち上がり、5歩・・・。扉を開ける・・・。ん?
「麝香くん!ちょっと!待ってたのに、なんで来ないのよ!!」
「神崎さん?どうしてここに?」
黄色い法被を着た神崎さんが、顔を赤くして扉の前に立っていた。
「来てねって言ったのに!!」
「いや、ちょっと、トラブルがあって・・・。」
「トラブルって何・・・・くっさ!!なんの臭い?」
「あ、まだ匂ってる?」
「なに、あなた、密造酒でも作ってんの?」
「は?違うよ。ちょっと米を炊くのに失敗しただけで・・・。」
「どうやったら炊飯で失敗するのよ・・。もぅ。屋台の友達に言ってたのに・・。麝香君が来たら教えてね!って。クラスメイトが来るって、ちょっとテンションあがるのに・・・。カレンも一緒に待ってたのよ?」
クラスメイトって・・・。ま、確かに、去年店番をしていた時に、知り合いが来ただけで楽しかったな・・。しかし、カレンって誰だ?彼じゃなかったのか?
「え?彼と一緒にって言ってなかった?」
「カレ?カレンでしょ?北川カレン・・。いつもクラスで「カレ」って呼ばれてるじゃない・・。」
「カレン?」
「は?もしかして、カレン・・・知らないの?」
知らない・・・と、言いにくいな・・・。
「あ!もしかして!私が彼氏と店番してるって勘違いしたとか?」
「え、いや、そんなんじゃ・・・なんというか・・・・。」
「ふっ、ははは、あははははは・・・。やぁねぇ。彼氏なんていないわよぉ。」
「はぁ?その顔で?うっそだぁ~。」
「その顔って何よ!馬鹿にしてんの?」
「違う違う!・・どちらかと言えば・・・褒めてる・・・。」
神崎さんは、少しハッとなって下を見た。
「・・・ありがとう・・・。あ。これ、持って来たんだった。」
神崎さんの手には、ビニール袋に入れられた缶ビールと、大きめの紙コップに入れられた焼き鳥が10本ほど入っていた。
「お!ちょうどいいな!つまみが欲しいと思ってたんだ・・・。」
と言った後に一つの疑問が浮かび上がった。
「そう言えば、なんで、俺の部屋が分かったの?」
「はぁ?あなた、言ってたじゃない。不死身荘の101って・・・。自分で言っていて覚えてないの?」
いや、確かに言った・・・。言ったけど、まさか覚えているとは・・・。
「そうだった。そうだそうだ・・・・。」
俺は咄嗟に忘れていた振りをした。
差し出されたビールと焼き鳥・・・。美味そうだな・・・。
お礼に、下手な冗談でもかましておくか・・・。
「美味そうだね。ありがとう・・・ちょっと上がって一緒に飲む?」
「え・・・・。え・・・・。えぇ?こんな臭い部屋で?」
「ははは!そうだな!男くさいよな!」
「・・・腐敗臭・・・とでもいうのかしら?酒粕の匂いが似てるわね。」
「え、まだ臭う?」
「えぇ。廊下だけかと思っていたわ。」
「・・・・廊下の扉も開けるか・・・。」
ビールの袋を床に置いて、靴を履く・・・。
「なんなら・・・・私の部屋・・・でも。」
「え?」
「ううん?何が?」
俺は急いで廊下の両端の扉をあけ放ち、空気の入れ替えをする・・・。確かに外の空気と香りが違うな・・・。
さてと・・・。
「神崎さん、今日はありがとね。今度、炊飯の失敗の仕方、教えてあげるからね。」
「・・・な、何言ってんのよ!わざわざ失敗するなんて・・・なんで失敗しなきゃいけないのよ!」
「ん?話のタネに・・・。」
「・・・女子がする話じゃないわね・・・。」
「それもそだね。」
酸っぱい臭いが無くなった事を確認した神崎さんは、手を振って帰っていった。
さて、飲みなおすか・・・。




