白濁した何か
あ、あれ?
「部屋のまえだ・・。」
色んな事、特に神崎さんの事ばかり考えていたせいで、何処をどうやって帰ってきたかは分からないが、いつの間にか俺は、部屋の前に立っていた。
「・・・ただいま・・・。」
短い間だったか、同居人が居た事で、声を掛けるのが癖になってしまったみたいだ・・・。
社長、がんばってるかな・・・。
社長が残していってくれた、中古の炊飯器を眺めて、広くなった室内を見渡す。
元々俺一人の部屋だ。俺の占有スペースが元に戻っただけ・・・。
さ、飯でも食うか・・・。
俺は、得意料理でもあるカレー(レトルトパックを温めるというテクニックが必要だが)を準備し、食器が入れてある籠から、深めの皿を引っ張り出す。
今日は、少し嫌な思いをしたので、軽くやけ食いでもしよう。
皿としゃもじを持って炊飯器へ・・・。
「あれ?これって、いつ炊いたんだっけ?」
最近、コメを炊いた記憶が無い・・・。
いつだ?・・・・ん?そもそも、この炊飯器が来てから米って炊いたか?
確か、社長が炊飯器のスイッチを入れっぱなしにして、壊れて、鍋で米を炊いて・・。
その時社長が中古の炊飯器を買ってきて・・・。
米を入れて・・・。社長がスイッチを入れて、俺はバイトに・・・。あれ?
あれから、社長が居なくなって、外食が続いて・・・。2週間くらい経ってるな・・・。
お米、黄色くなってるかも・・・。食えるかな?
「いざ!!」
俺は、近代技術の発展を信じ、炊飯器の蓋を開ける!
黄色・・・くない!!!
「・・・・・・くっさ!!!」
何だろう?この腐敗臭と言うか、発酵臭と言うか・・・・。
って、発酵?
炊飯器の中に見えたのは、白濁した粘り気のある水分と、辛うじて原型をとどめている米粒の群れだった。白濁した水分は、その粘り気を活かしたようにぶくぶくと泡立っており、炊きあがったお米の香りとは対極にあるような、酸味と腐敗臭がまじりあった危険な匂いを醸し出していた。
咄嗟に蓋を閉めなおしたが、一度吸い込んでしまった臭いは、鼻の奥にこびりついて離れない・・・。
俺は、そのまま玄関の扉をあけ放ち、部屋の中に漂っている異臭を追い出す。
そして、電子レンジの上に置いてあるラップを手に取り、再び炊飯器に挑む!
ラップを慎重に、引っ付かないように広げて、炊飯器の前で構える。
・・・・ダメだ!手が足りない!!
蓋を開けても、上手くラップを差し込めないだろう。・・・こうなったら・・・。
俺は、学校へ行くときのリュックを探って、透明な下敷きを取り出す。
これなら、うっすらと開けた炊飯器の蓋に差し込む事で、臭いを封じ込めたまま流しまで持って行けるだろう。
スロットで鍛えた目押しのタイミングで・・・3・2・1・ほい!!!
思った以上に上手く滑り込ませることが出来た。・・・もう、この下敷き、使いたくないな・・・。
一度、肩の力を抜き、蓋をゆっくりと開ける・・・。一人用の炊飯器は、A4サイズの下敷きで、ギリギリ蓋が出来る大きさだった。
殆ど使ったことが無い鍋掴みを両手に装着し、炊飯器の内釜を持ち上げる。
・・・下敷き・・・透明じゃない方が良かったな・・・。
某アニメの腐った森を彷彿とさせるような光景が視界に入る。
ま、このまま水で流してしまえば、一件落着だ。
・・・・そう思っていた時期が、俺にもありました・・。
下敷きをずらして隙間を作り、そこに水道水を流しいれる。
水が入って体積が増えるという事は、その分の空気が押し出されるという事・・・。
「・・・!!くっさ!!!」
そう、再び俺に、臭気が襲い掛かってきたのだった!
即座に換気扇を回し、風の流れを作る・・・。この臭いはやばい・・・。
ある程度水が溜まって、下敷きの隙間から水もあふれ出した。そのまま暫く水流に任せ、中の白濁した水を水道水で薄めながら流していく・・・。
「・・・もう、いいかな?」
下敷きの隙間を調節し、ゆっくりと水だけ流しに捨てていく。
残った内釜には、ボロボロになった白米が・・・。
とりあえず、流しの排水穴に取り付けてある、ストッキングタイプの網を取り出し、新しいものに付け替える。で、改めて崩れかけた白米を排水穴に捨てておく。
・・・水分をなくさないと・・・。
米をため込んだ網を取り出し、もう一度ゆすいでから水切りを行う。
「・・・参ったな・・・。カレーを温めたのに・・・食欲がなくなった・・・。」
一度あっためたレトルトカレーって、そのまま冷やして大丈夫なのだろうか?
しかし・・・米を失った後に、カレーまでも失いたくはない・・・。
食欲は余りないが、仕方なくパスタを茹でる事にした。(炊飯器は使えないし・・・)
パスタはすぐに茹で上がり、湯切りを行う。
湯切り・・・。湯切り・・・。
パスタを茹でたお湯が、水切り中の米だったものに直撃!!
湯気と共に、異臭が再び俺を襲う!!
「・・・。何やってんだ、俺・・・。」
もう、臭さで騒ぐのもあほらしくなった。




