三菱・・・三ツ矢・・・。
不死身荘の入り口をくぐり一番奥の部屋へ・・・。
薄暗い通路の中央付近には、マッチョな男性の等身大ポスターが張られており、夜更けにここを通ると嫌な夢を見そうだ。
しかし!今日は違う!
同年代、同じ学部、同じ学科の高嶺の花!
神崎さんと30分近くも2人きりで話しながら歩いたのだ・・・。
もう、アレはデート!!
・・・何てな。
そんなバカみたいな幻想は抱くことは無い。
高値の花は、あくまでも見るだけのものなのだ。期待をしてはいけない・・・。
大丈夫、俺は浮かれたりなんかしていない・・・。大丈夫。
俺はスキップをしながら部屋にたどり着いた。・・・うん。大丈夫だ。
ベルトループに引っ掛けてあるカラビナを外し、部屋の鍵を取り出す。
・・・カス・・・
予想通りカギはかかっていなかった。
社長が部屋に居るのだ。
「ただいま帰りまし・・・た?」
俺は、目を疑った。
目の前には、30代?いや、若く見えるが40代?の女性が座っていた・・・。
あれ?部屋を間違えた?
漫画の様に、一度部屋をでる・・・なんてことはしない。
何しろ、異様なのは部屋の中の女性だけなのだから。
「え?・・・だれ?」
俺が女性をガン見していると、女性は立ち上がり、俺に頭を下げてくる。
え?何?何かの恩返し系?
「長い間お世話になったようで・・・。」
女性は、見た目に違わず若い声をしている。
いや、本当に若いのか?
とは言え、俺は驚いたまま、まだ声は出ない。
「ジャコ・・。」
どこかで聞いた事のある声が、女性の近くから聞こえた。
・・・誰?・・・って、社長か・・・。
「社長?・・・あ、そこに居たんですね・・。」
女性に目を奪われていたから気付かなかったが、女性の隣には社長が座っていた様だ。
って事は・・・。
社長が女を連れ込んだ?
・・・いや、お世話になったって言っていたな・・・。何が?
「あの、幸次がお世話になりっぱなしで、申し訳ございませんでした。」
幸次?こうじ・・・こうじ?誰?
ここに居るのは、俺と・・・社長・・・。社長?
社長、幸次って名前だったの?
俺は、もちろん知っていますよと言うくらい、ポーカーフェイスを決め込んだ。
「いえ、特にお世話なんてことはしていませんが?」
「いえいえ、衣食住の衣以外でご迷惑をおかけしておりましたので・・・。」
衣以外って初めて聞く表現だな。
「って事は、社長のお姉さんですか?!」
「ジャコ、違う、母ちゃんだ。」
「かあちゃん?・・・お母さん?・・・うそ・・・。」
社長の外見から・・いや、社長は大学生・・・で、留年を繰り返して、そろそろ期限切れって事は・・・。恐らく社長は26歳前後!
その母親となると・・・。50近いんじゃないか?・・・ないない・・・。
「嘘を言ってどうする。・・・いや~、バイト先から足がついてな・・・。」
「こら!足が付くとか言わない!」
・・・社長が怒られるなんて・・・。
「いやぁ、今日の昼頃、ここに尋ねてきてな・・・。すまん。」
「いえ、それは良いんですが・・・。社長はこれからどうするんですか?」
「ん~。まずは弟子入り・・・。小間使いとして勉強させてもらいに行く事になるよ。」
本当に落語家になるんだ・・・。すごいな・・・。
「所で麝香さん、あの・・・ぶしつけではございますが、こちらをお納めください・・・。」
社長のお母さんが、封筒を渡してきた。
・・・そこそこの重みがあるが・・・。中身は?
!!!金!!!
思わず数えだしたくなるのをぐっとこらえ、封筒を突き返す。
「いえ、これはいただけません。特に俺が何かをしたという訳でもないですし。」
そう、ここは礼儀として、日本人として、一度断る事が大切なのだ。
心の中では『いえ、そんな事を仰らず!』とかなんとか言いながら、もう一回俺にくれ!!!と叫びながらではあるが・・・。
「ジャコ、それは受け取ってくれ。ほら、行ってただろ?バイト代が入ったらって・・・。」
「まぁ、確かに言ってましたが・・・。」
「それだと思ってくれ・・・。」
「でも、こんなに?」
俺の目算では15万円くらいは入っている。下手すると20万?
今日、3万5千円失った俺としては、非常にありがたい申し出であった。
「そういう事であれば・・・・。頂いておきます・・・。」
「じゃ、そういう事で・・・。」
そう言うと、社長が立ち上がり、握手をしてきた。
「え?もう行っちゃうんですか?」
「・・・それもそうか・・・。飯でも行こうか?」
「それは良いわね。お礼の意味も込めて、ね?」
「そうですか?それでは、何処に行きます?」
近場だと、中華料理の娘々しかないけど・・・。
「いいから、ほら、車に乗って・・。」
車?えぇっと・・・。
不死身荘の前には、真っ白なセダンが止まっていた。
車の正面に掲げられた三菱マークみたいなのが印象的だ・・・。
って!ベンツかーい!!!
その日、俺は生れてはじめてベンツにのった・・。




