楽しひととき
パチンコ店から学校までの道のりは、自転車に乗ったままの状態では少々きついため、神崎さんと一緒に、自転車を押しながら話をして歩いた。
とは言え、漫画やアニメの様な、青春って感じの話でないのが残念極まりない。
なぜこの話になったのか?
「でね?1年の夏からバイトを始めてね、初期教育とか、ほんっとに面倒だったの。パチンコの法律だとか、景品のルールとか・・・。」
「へぇ、パチンコ店も色々法律とか関係してんだね。」
「そうよ?パチンコ店は風俗営業なの。それが結構厳しくて面倒なのよ。パチンコ店なのに、射幸心を煽っちゃいけないって、どういう意味?って思わない?」
そもそもパチンコは、射幸心の塊のような気がするのだが・・・。
「って事は、神崎さんは今、風俗のお姉さんになるの?」
「ぶはっ!何それ、怪しい言い方にしないでよ?それにね、「風俗」って意味、しってる?」
「・・・なんか、アダルトチックな・・・。」
「違うわよ。風俗ってのはね?その時代に応じた生活習慣や伝統って意味があるの。覚えておきなさいよ?」
神崎さんは片手で自転車を操りながら、左手の人差し指で俺の顔を指してくる。
・・・何だこの人。話の内容以外は青春っぽい!!
「でね?パチンコ店の景品ってね・・・・。」
パチンコの話をしているだけで学校の正門までたどり着いてしまった。
「あ、私こっちだから・・・。」
神崎さんはそう言うと、左側の正門を指示した。
俺の部屋もそっちの道から行けなくはないが、「こっちだから」って言われるとそこまでの様な気がする。
「そう、学校寄ってくの?」
「ん~ん。近道!」
「了解、ほなら!」
「じゃね、お休み!」
まだ寝るには早すぎる時間だけど、神崎さんは元気に手を振って去っていった。
「・・・ふぅ。・・・なんか疲れた・・・。」
久しぶりに女性と喋ると疲れる・・・。ま、話の内容がパチンコの話ばっかりだったからそこまで方は凝らなかったけど。
俺はいつもと同じように、学校の横の道を下っていく。
ここからは自転車をこぐ必要はない。ずっと下り坂なのだ。
少し進んでいくと、中華料理店の娘々が見えてくる。
・・・今日、負けてなければ外食も・・・神崎さんとのディナーも有ったかもしれないのに・・。
中華料理の独特な油の香りを嗅ぎながら、次の交差点を目指す。
闇夜に光る自販機が不死身荘への目印になっている。
今時、「1本50円から」と銘打って販売している珍しい自販機で、時々お世話になっている。
「きゃ!」
「あぶな!!」
自販機に目を奪われていると、交差点で他の自転車とぶつかりそうになった。
「あ、あの、ごめんなさい。怪我とかないですか?」
「・・・?え?麝香君?なんで?」
「あれ?神崎さん?なんで?」
お互い、頭の上にはてなマークが浮いた状態でフリーズする。
「あ、もしかして、私に用事があった?」
「・・・え?あ、そういう事じゃなく・・・。」
「・・・違ったか・・・。」
「えっと、俺、この先に部屋が有るから。」
「えぇ、そうなんだ!意外と部屋が近かったりしてね。・・・どこに住んでんの?」
「んと、そこの不死身荘・・・。」
「不死身・・・え~!!不死身荘?本当に?」
「え、加崎さんは?」
「私、無敵荘・・・。」
「「お隣さんじゃん!」」
約2年間、不死身荘に住んでいたが、神崎さんと会った事がない。最近引っ越してきたのだろうか?
「全然、会ったことなかったよね?私、知らなかったわ。」
「え、いつから?」
「バイト初めて体から、ちょうど1年前くらいかな?」
「・・・凄い確率で出会わなかったんだね・・・。」
「ほんとね・・・。」
ぶつかりそうになった事も有って、再び自転車を押しながら歩く。
「そっか・・・。お隣さんなのね・・・。ね、何号室?」
「不死身荘の101号室だけど?」
「私はね、無敵荘の2階の・・・。あ、やっぱりやめとこ。ないしょ!」
やたらと仕草がかわいらしい。
「じゃ、お隣さんって事で、これからもよろしくね!」
「あぁ、お休み!」
「お休み!」
俺は何となく、ふわふわした気分で部屋へ戻るのであった。




