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【第1部完結】空想旅行社ラピエス【第2部開始】  作者: ことのはじめ
6.お姫様と少年 別れ

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7.もう一度、話を

 アデーレとの話で一つ思いついたシエラは、早速思いついた案をアデーレに話す。



「フィスさんの日記を、ティシュアさんに渡すんです。もちろん、フィスさんにも話した上でするんですけど。ティシュアさんはフィスさんに嫌われたり忘れられたりするためなら、きっと来るはずです」



 一通り話を聞いたアデーレは少し吟味してから頷く。



「なるほど、それならまた二人を引き合わせることができますね。ですが、引き合わせた後はどうするつもりですか」



 シエラははい、と返事をする。



「月並みかもしれないですけど、お話をしてもらおうと思って。もちろん、私もその場にいようと思ってます。なんだかんだ、二人に色々と相談されましたから。間に入って、なんとか頑張ってみたいと思うんです」


「あなたの気持ちは汲みましょう。ですが責任をあなただけに背負わせるわけにもいきません。私も同席しましょう」


「支配人も?」



 シエラに頷いてみせ、アデーレは早速シエラの案を詳しく詰め始める。シエラはアデーレの言葉を聞きながら、意見を述べていった。


 大まかに概要が決まったあとは、シエラが直接他のクルーに作戦を話していく。誰も彼もシエラが二人の仲を取り持ちたいことを理解していて、協力すると言ってくれた。


 フィスにも、もちろん事情を話しに行った。



「フィスさん、私です。シエラです」



 シエラが入ってもいいか聞くと、フィスはくぐもった声でどうぞと答えた。

 部屋に入るとフィスはベッドの上でうずくまっていた。シエラはそっとフィスの側に歩み寄って様子を伺う。



「大丈夫ですか?」



 シエラが問えば、フィスはふるふるとかぶりを振る。少しは落ち着いたかもしれないが、まだ完全には立ち直れていないだろう。



「何を、しにきたの」



 力ない声でフィスが問う。シエラは、先ほどアデーレと話したことをフィスに告げた。



「フィスさん。もう一度、ティシュアさんとお話してみませんか」


「ティシュアと……?」


「はい。先ほど何をお話しされていたかはわかりませんけど、でも、お二人には悲しいまま旅を終えてほしくないんです。私の勝手かもしれないですが、お二人には笑顔でこの船を発ってほしくて」



 自分勝手だとシエラは思う。



「こちらの勝手なのは百も承知です。でも、もう一度お話ししてみたら、何か変わるかもしれない、そう思うんです」


「……本当に、変わると思う?」



 所在無く聞くフィスに、シエラは頷く。



「ここで何もしないよりは、変わるって、そう信じてます」


「シエラって、まっすぐなのね」



 フィスは顔をあげると、そっと目尻にたまっていた涙を拭う。



「私も、ティシュアともう一度話したい。やっぱり私も、変えたいって思うから」



 シエラはフィスの言葉を聞き、どうやってティシュアともう一度話すかの段取りを話し始めた。



「それで、本当にティシュアと話ができるかな」



 一通り話を聞いたフィスは、不安げに俯く。それを励ますようにシエラは声を明るくして言った。



「私も支配人も同席するつもりです。大丈夫ですよ、公平な第三者が話し合いにいると思っていただければ」


「でも、ティシュアが話を聞いてくれなかったら」



 それでも、フィスの不安はおさまらない。


 ティシュアにこっぴどくふられてしまったのか、シエラには判別がつかないがそれでもシエラはちからになりたいと頭を巡らせる。



「ティシュアさんは、本当にフィスさんを嫌っているって、私は思わないんです」



 首を傾げるフィスに、シエラは言った。



「だって、本当に嫌いだったなら、フィスさんのその後なんて考えたりなんてしないですよ。フィスさんが苦しくないように、とか、辛くならないようにって思うのは、フィスさんが大事だからだって、私は思います」


「私が、大事……?」


「そうですよ。だから、ティシュアさんもきっと話を聞いてくれるはずです。大事な人なんですから」


「……そうだと、いいな」






 わかっていても、親しくしていた人を突き放すのは辛い。ティシュアは客室の窓辺から外を眺めていた。月明かりが青白く外を照らし、灯りのついていないティシュアの客室にもそっと差し込んでいる。


 自分に好意を抱いてしまったから、フィスは苦しいのだ。その何もかもを取り除いてあげられたら、別れもフィスにとって苦しくなくなるだろう。


 集積された知識を散逸させるように。


 ティシュアがそんなことを思っていると、不意にドアをノックする音が聞こえる。答えずにいれば、扉の向こうから、落ち着いた声音が聞こえてきた。ユヅルハの声だ。



「お客様。フィス様よりご伝言がございます」



 バーテンダーなのに伝言を任されるなんて不思議なこともあるものだ。それとも、特別にフィスが頼んだのだろうか。


 どういうことか、聞くだけ聞いてみよう。ティシュアがドアを開けて出迎えれば、ユヅルハが恭しくお辞儀をして答えた。



「フィスから伝言、ですか?」


「夜分遅くに申し訳ありません。ですが、フィス様から急ぎの伝言です」


「……とりあえず聞かせてもらっていいかな」



 ユヅルハは首肯し伝言を述べる。



「フィス様からお渡ししたいものがあると。明日の夜、甲板にてお待ちするそうです」


「いまさら何を渡すって? 僕には彼女から受け取るべきものなんてなにもないよ」



 否定的なティシュアの態度に、ユヅルハは首を振って続ける。



「あなたにしか受け取れないものだとフィス様は仰っています。なんでも、記憶に関することだとか」


「記憶……もしかして」



 思い当たる節があるのか、ティシュアははっと目を見開く。ユヅルハはそれを見ても動じずにゆるりと頭を下げた。



「では、確かにお伝えいたしました」



 そして、ティシュアの答えを待たずにその場を辞した。ゆったりと歩み去っていく姿を見送ることもなく、ティシュアはドアを閉めた。


 ドアを閉めた先で、フィスの思惑を考える。


 記憶に関するものを渡したいという。だが、それは自分とまた話をするための方便かもしれない。それに、ティシュアが影のことを教えたとて、フィスが記憶を差し出す方法を思いつくはずがない。


 仮に思いついたとしても、フィスにすぐ用意はできないはずだ。

 だとしたら、一体どういう目的なのだろう。やはり方便なのだろうか。


 確かめるには、伝言の通りにするしかない。


 ティシュアは静かに息をついた。

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