第45話 ピンチ
<矢橋真子奈side>
階段の踊り場でララと気まずくなってから、ろくに会話をしていない。さすがに同じクラスだから、目が合ったら挨拶はするけど、雑談するまでにはいかないレベル。
ララは飯塚さんとよくいるし、最近、一人でいるところを見かけても、眠そうで疲れている。……何かあったのかな。
「立花さん、今週末にある那真栄マラソン大会に出るみたいだね」
アキが次の授業の準備をしながら私にそう言った。
「えっ。そうなの?」
確か去年もしていた、地元で有名な大会だ。
ララも出るんだ。もしかして、練習のために走っているから疲れているとか?
「うん! ちなみに私と甲斐も出る予定だよ! 甲斐なんか、立花さんをライバル視して燃えてたよー。……マコ、七海と一緒に応援に来てよ!」
どうしようかな。と一瞬ためらったものの私は「行く!」と返事をしていた。
その時、ナナミンが横からひょっこり現れる。
「ねぇ。応援うちわとか作っちゃう?」
にこにこ顔だ。
「どうしようか」
「私はウェルカムだけど!!」
アキが手を挙げる。
「……目立つかな?」
「大丈夫だよ! ライブとかでも持っている人、結構いるし。士気もあがる!!」
じゃあ、作っちゃおうかな。
私はチラリとララを盗み見る。彼女は飯塚さんと喋っていた。
はぁ。と私は、みんなにわからないように小さくため息をついた。
ララのことを好きじゃないと言ってしまった、あの時の自分を消してしまいたい。
過去は変えられない。望む未来を手に入れたいなら、行動に移さないといけない。待っているだけでは駄目なんだ。
私ができることとはーー。
頬杖をつきながら、ゆっくりと目を閉じた。アキに「マコ?」と言われるまで、私はずっとそうしていた。
ーー那真栄マラソン大会当日。
天気は穏やかな曇りで、走るのにうってつけだと思った。
私とナナミンはマラソンのスタート地点に、うちわを持って立っていた。
「マコ、楽しみだね」
「うん」
昨日徹夜して作った、応援うちわ。文字は「アキ頑張れ!」と書いてあって、星を散りばめて目立つようにデコっていた。
ナナミンが持っている応援うちわは「ファイト!」の文字が書いてある。誰にでも対応できるようなうちわで、私もそうすれば良かったかなと一瞬だけ悔やんだ。
「あと、10分くらいですね」
ナナミンの隣にいるのは凛香ちゃん。何も手には持っておらず、遠目にいるアキをじっと見つめていた。物を作るだけが愛情ではない。素敵な関係だと思った。
私も自然とララを目で追っていた。キャップを被り直した後、腕を交差させながら準備運動をしていた。
何言ってんだろうと思われるかもしれないけど……ララがショートカットにしてから、かわいさの中にかっこよさも混じって、なおさらかわいく見えた。
遠目からだと、ずっと見ていても変に思われない。近距離だとララの目を見れないこともあるというのに……。
その時、不意にララと視線がぶつかった。胸がドキッとする。
それどころか、グイグイ私の方に近づいてくる。えっ。なんで。そんな。
ララが目の前まで来ると、ナナミンと凛香ちゃんの視線も同時に惹きつけた。
「……あたし」
意を決したようにララが口を開く。
「頑張るから。だから、真子奈、見ててよね」
「!! うん!!」
気持ちがいっぱいで、ただ頷くことしかできなかった。
ララは私が持っているうちわに目を向けると、表情をなくした。まずい。うちわには「アキ頑張れ!」って書いているんだった。
ララは何も触れずに「それじゃ」と短く言うと、自分の持ち場に戻っていった。
「マコ……」
何か言いたげな瞳を向けるナナミン。
「大丈夫……」
とにかく今は、3人でララやアキ、そして甲斐さんの行く末を見守ることが大事だった。
もうすぐ那真栄マラソン大会がスタートする。
パンッと、勢いよくピストルの音が鳴ったら、スタート地点の選手たちが一斉に走り出した。その中に、ララ、アキ、甲斐さんの姿があった。
「頑張れー!」
あちこちで響き渡る歓声に溶け込むように、私も声を出して応援した。
すると、「きゃっ」と高い声が耳に入った。一番に飛び出したララが転んだ。
「ララ!」
私は何もできず、見ていることしかできなかった。スタッフがララの元に向かい、何か声をかけると彼女は「大丈夫です!」と言って起き上がり、前を走る人たちについて行こうとした。
「……ララちゃん、大丈夫かな」
「ひざから血が出ていましたね……」
二人は心配そうにララの背中を見送った。
そんな……。
私は無意識のうちに手をきつく組んでいた。目をつぶり、いるかもわからない神様に向かって、ララを守ってくれますようにと祈った。




