第44話 絶望と希望
<立花ララside>
トイレ掃除が終わり、余った時間で真子奈の元に向かおうとして、あたしはハッとした。……やっぱり、辞めよう。告白して断られた後なんだから、気まずいわ。
だけど。
だけど……。
真子奈を陰から見るだけなら?
……。
それは、ギリギリ、許される気がした。
少し遠回りをして、壁の陰に隠れて、そっと見るだけなら良いんじゃないか。
あたしは自分に言い訳をして、真子奈の元に向かった。しかし、肝心の真子奈は見当たらなかった。
どこに行ったのかしら。もしかして、もう教室に戻っているとか?
少し待ってみたけど、真子奈は戻ってくる気配がなくて……あたしは諦めて自分の掃除場所に戻ろうとした。
……もしかして、あたしを避けているのかもしれない。なんて直感が頭に浮かんで、気分が沈んでしまった。
あたしは絶望した。
体育では、陸上の授業が終わり、水泳のシーズンが始まろうとしていたからだ。
そうなると、マラソンは当分ない。
そんな……。あたしの目論見が外れてしまった。
他の生徒は、水泳の方が嬉しいと感じてる人が多いと思う。だけど、あたしはどん底に落ちた気分……。
実は、次のマラソンでまた1位を取れたら、"勇気を出す"と心に決めていたからだ。
あたしはカナヅチだ。水泳は好きじゃない。1位を取るなんて、夢のまた夢だ。
でも、そう決まっているんだから仕方がないわね。
とりあえずトイレに行こうと、一人、廊下をトボトボ歩く。前を向いていなかったからだろうか。肩と肩がぶつかった。
「いたっ」
「ごめんなさい……」
相手は甲斐だった。最悪。
一度謝ったから、そのままスルーしてもいいわねと思っていたら、肩を掴まれた。
「良いところにいたわ。立花さんは、市のマラソン大会に出る?」
「えっ? 何それ……」
初耳だった。市のマラソン大会……?
「あぁ。立花さんは陸上部じゃないから、知らなくて当たり前か。ほら、これ見て」
甲斐がスマホの画面を見せてくる。
そこには、『第21回 那真栄マラソン大会』と書かれたポスターが表示されていた。
概要欄には「雨天決行」「参加者募集」との文字も表記されている。
「10kmマラソン! 今週末にあるんだけど、一緒に出ない? あの時の雪辱を果たしたいわ!」
「……」
「私、悔しくて。もう一度、立花さんと対決がしたい! もう、授業では当分マラソンはないみたいだから……この大会に出て、私と勝負してよ!」
甲斐は真っ直ぐな目をして、あたしを見つめる。
「熱いわね」と思いながら、甲斐のスマホ画面に映ったポスターを隅から隅まで見ていると、"あるもの"が目に留まった。
なんと上位入賞者には「クマーヌ」の特大ぬいぐるみをプレゼントすると書いてあったからだ。
「……やるわっ! あたし参加する!」
「そうこなくっちゃ! エントリーはネットからでもできるから忘れずに済ませておいてよね!」
じゃ、と片手を挙げて、甲斐は去っていった。
体育の授業でマラソンが終わったのは残念だったけど、代わりに市の大会があるみたいで良かった。
この大会で、あたしは1位を取ってみせるわ!
残り少ない日数だけど、持てる時間のすべてを練習に費やすつもりだった。
失恋で髪を短くしたけど、見方を変えれば、前よりも走りやすそうでいいじゃない?
とりあえず、あたしは今日早く家に帰って、レトと一緒に走って散歩がしたかった。




