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名前がコンプレックスの女の子を好きになってもいいですか?  作者: 宮野ひの


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第43話 すれ違い



<矢橋真子奈side>



「あたし、真子奈のことが好きよ」


 ーーララから言われた言葉が嬉しかったのに。


 その前に、浦山ひろきの話を楽しそうにされたことに嫉妬して、「好きじゃない」なんて嘘をついた。


 ララは悲しそうに俯いて、私の前からいなくなった。

 掃除の後、話す機会はあったはずなのに、放課後ララは急いでどこかに行ってしまい私も一人、帰路についた。LINEすらも送れないでいる。


 あれは、告白だったのだろうか……。

 とにかく明日、ララに謝ろう。「好きじゃない」の発言を撤回したい。


 ……キスは腹が立った時にしても良いことはない。

 悲しい気持ちが残るだけだ。


 私からララに、好きなタイミングでキスができる権利はまだ1回残されているはずだ。

 だけど今となってみれば、もうそれも消滅しているかも。


 ……私は今日、眠れない夜を過ごすことになるだろう。

 掛け布団を頭まですっぽり隠して、目をギュッと閉じた。





 やっと寝ついたのは朝方の頃。目覚まし時計が鳴った後、ベッドからゆっくり起き上がり、朝の身支度もノロノロと行い、なんとか学校に向かう。眠気が酷くて、あくびも止まらなかった。


 教室に入って、ある光景を見た時、ぼんやりとしていた頭が冴えた。


 ーーララが髪を切っていたからだ。


 いつものツインテールではなく、ショートカットになっている。どうして?

 飯塚さんがララの側にいて、優しく髪を触っていた。


「思い切りやったねー。もしかして、失恋でもした?」


 二人の会話が耳に入り、反射的にドキッとした。

 ララは肯定も否定もしない。にっこり笑って「似合う?」と一言、飯塚さんに聞いていた。


「めちゃくちゃかわいい! 写真撮ってもいいー?」


「いいわ」


 ララなら断りそうなのに、素直に受け入れて、なんとピースサインまで作っている。


 確かに、ララは何の髪型をしてもかわいいと思う。だけど、なんであんなにバッサリ切っちゃったんだろう。


 まさか、飯塚さんの言うとおり、失恋だったりするのかな。私の昨日の一言が影響してたりするということはあるのかな。





 掃除の時間になっても、私の元にララは来なかった。ホウキを掃く手が止まり、一人ため息をついた。


 アキが言うには、ララの髪を切ったのはアキということだった。昨日、家の美容院に来たらしい。お母さんが手一杯だったから、アキが対応して髪を切ったらしい。


 どうして? 何故? と聞きたかったけど耐えた。アキに聞いても困らせると思ったからだ。


 ……。


 ーー今すぐ、ララに会いたい。


 そうだ。私って、いつもララを待っている側だ。早く掃除を終わらせて、ララのところまで私が行けば良いんだ!


 そうと決めれば、いつもよりも手早くゴミを集めた。集中すると、すぐに掃除を終わらせることができることを今知った。


「よし」


 残り時間も少なかったので、急いでララの掃除場所に向かった。


 すると、廊下の角を曲がったところで「矢橋さん」と声をかけられた。


 振り向くと、丸本くんだった。私に向けて手招きをしている。


「……どうしたの?」


 私は丸本くんの元に向かう。


「急に呼び止めてごめん。これ、渡したくて」


 丸本くんはポケットの中に手を入れると、ゲームのカセットを取り出した。


「昨日、矢橋さんの弟が、家に遊びに来たんだけど、カセットを忘れていったんだ。郁也……、あっ、俺の弟が前に、中学校にゲームを持って行ったら先生にバレてすごく怒られたことがあって。……だから俺を仲介して矢橋さんの弟に返して欲しいって頼まれたんだ。はい。確かに渡したから」


 否応なしにゲームのカセットを受け取ることになる。高良のやつ……。赤ペンの時といい、本当いい加減なんだから。


「……ありがとう」


「……あのさ、大丈夫?」


「えっ?」


「顔色が悪いから。……それに焦っているように見えたし」


 ララのことを考えて、ろくに眠れなかったからだろうか。


 ……って、丸本くんが言うくらいだから、私って相当ひどい顔しているってことだよね? 普通、知り合い程度の人には、わざわざ指摘しないよね?


 ……こんな顔では、ララには会いたくない。教室では一度顔を合わせているけど、モチベーションが下がってしまい、会いに行く気がなくなってしまった。


 ここはもう丸本くんと向き合おうと思い直し、顔を上げる。


「あははっ。バレた? 昨日、夜更かしして、あまり眠れなかったんだ。体調ってすぐ顔に出るもんだね〜」


「そうだったんだ。眠れないと辛いよね。あと、無理に笑わなくて良いよ。じゃ」


 優しいんだか、冷たいんだか、わからない感じで丸本くんは言う。ゲームのカセットを渡したから用事は済んだと言わんばかりに私に手を振り、その場を離れた。


 もう少し話すものだと思っていた私は、拍子抜けをした。丸本くんって不思議な人。……無理に笑っているところを見抜かれたのは少し嫌かもなぁ。





 なんとか自分の掃除の持ち場に戻ると、ララの後ろ姿が見えた。声をかける間もなく去っていった。私の存在には気付いていない。数秒の差で入れ違ったことになる。


 今日も来てくれていたんだ。


 私がララの元に行っていたから、すれ違いになっちゃったんだ。……そのまま待っていれば良かったんだ。


 タイミングが合わない。些細なことだけど、今はとても悲しかった。

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