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名前がコンプレックスの女の子を好きになってもいいですか?  作者: 宮野ひの


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第38話 変化

「立花さん、何かあったの? 私を待つなんて珍しいね」


「……ちょっと聞きたいことがあって」


「んー、なにー?」


「あなた、いつから中原妹と付き合っているの? 女同士だったのに、何でそんなにすんなり上手くいっているの?」


「ちょっ! ちょっ! 待って」


 葉月は焦る。直球に聞いたのがまずかったのかしら。


「知りたかったから聞いたの……。不快に思わせたなら謝るわ」


「いやいや、いきなりだったから驚いただけだよ! まさか、立花さんから、そういうことを聞かれるなんて思わなかったから……」


「……答えたくないなら良いわよ」


「いやいや言うよ! ……別に大っぴらに隠しているわけでもないしね」


 葉月は目線を上にして考え込む。


「……えっと、どこから話そうか。凛香と私が付き合ったのは中学生の時だよ。私が中3年で、あっちが2年。同じ陸上部だったんだ」


「ふぅん……」


「……同じ長距離を希望していて、私が走るコツやアドバイスなどをして、仲を深めたって感じかな。それで夏前の合宿の夜、凛香から告白されて付き合ったんだ。女同士だったけど、他にも女同士で付き合っている子がいたし……そこは別に男女の恋愛と変わらないと思ったよ」


「そうなのね……。それって葉月は、中原妹を急に恋愛対象として意識できたわけ?」


「うん!」


「!! へぇ……」


 意外な回答だった。


「……そりゃ、最初は後輩から告白されてびっくりしたけど、顔を真っ赤にして大好きって言ってくれるし……。その場では少し考えさせてと言ったけど、その日の夜から凛香のことしか頭から離れなくなった」


 照れながら葉月が言う。


「……それで後日、あらためてOKした時も、泣いて喜んでくれたのがかわいかった。デートを重ねていくうちに好きになって……今じゃ私の方が好きなくらいだよ」


 ふーん……。頭から離れなくなる状態ねぇ。


 あたしも真子奈のことが頭から離れなくなることがある。……それが続くと、自分の中で思いの変化にもわかりやすく気付くものなのかしら?


「……葉月は友達がたくさんいるじゃない? 他の女の子と接する上でも、友達と恋愛対象の違いって何だと思うの?」


「そりゃ、もうキスしたいかキスしたくないかの違いでしょ!」


 葉月が堂々とした態度で言う。あたしは反射的にドキッとした。


 あたしのことを言っているわけではないのに、葉月に見透かされているような気がした。


「凛香とはキスしたい。けど、他の友達とはしたいとは思わない。その違いかなぁ」


「ふーん……」


 じゃあ、あたしが真子奈にキスしたいと感じた時点で、あたしの思いは友達に対して向いているものではないのかもしれない。


 だけど、あたしたちは今、親友のはずだ。 


「葉月は親友っている?」


「いるよ! 七海。どうして?」


「そう……。じゃあ、中原とはキスしたいと思う?」


 純粋に聞いた質問だった。だけど、葉月が引きつった顔をする。


「ないよ! でも、冗談でもそういうことは言ってほしくないかな! 仮にも凛香のおお姉ちゃんだし(笑)」


「ごめんなさい。……そうよね」


 あたしは深く謝る。


「親友はキスしたい対象にはならないわよね」


 あたしが下を向いたからだろうか。葉月はそれ以上、怒ることなく、押し黙った。


「……もしかしてさ、マコと何かあった?」


 葉月の顔を反射的に見る。


「あれ、当たりかな〜」


 仕返しと言わんばかりに葉月はニヤニヤしている。


「……別に、何もないわ。おかしなこと言わないで」


 この期(ご)に及(およ)んで、しらを切り通そうとした。


「ふふっ。どうだか〜」


 葉月は軽く流しつつ、「今は何も聞かないでおくよ」とも付け加えた。


「……まぁ、でも。キスしたいなんて思う相手がいるなら、友達……親友の域はとうに超えているのかもね」


 葉月は意味深にそう言うと、流し目であたしを見た。


 そっか。そうよね。


 映画やドラマで見る親友も、女同士であっても唇と唇でキスをすることはないわ。……人それぞれ定義は違うのかもしれないけど、真子奈とあたしの今の状況は、親友とは言えないかもしれないわ。


 二人で歩いていると、美容院の前で葉月が止まった。


 看板を見ると「葉月」とオシャレな字体で書いた看板があった。大きなガラス張りの窓から、店内が見えた。


「ここ私の家なんだ! 立花さん寄ってく?」


 葉月は包み込むような笑顔を添えて言う。窓からは、葉月のお母さんらしき人が、お客さんの髪を切っているのが見えた。


「ありがとう。だけど、今日は遠慮しておくわ。あたし、行きつけの美容院がないから、次に髪を切りたくなったら、ぜひお邪魔させてもらうわ」


 あたしは、そう葉月に約束をした。


 葉月と別れた後、今日は少し遠回りをしたくて、歩いたことのない道を通って帰路につこうとした。






 葉月が言うには、キスをしたいと感じる相手は親友の域はとうに超えているらしい。


 それなら、あたしが真子奈に向ける、この気持ちはーーーー。


 いつもと違う道を歩いただけなのに、自分が違う人になったような気がした。頭の中は真子奈のことばかり。葉月が中原妹に向ける気持ちのような思いの変化がありそうな気がした。

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