第36話 夢じゃない?
<立花ララside>
浅い眠りの時は、いつも夢を見ている。現実のように鮮明なのに、起きるまでは夢とは気付かないから不思議よね。だけど、体のどこかでは、それが夢であることはわかっているーー。
目の前には真子奈がいた。あたしたちは観覧車に乗っている。
真子奈は笑っていた。目を細めている。きれいな青空で、あたしたちを乗せた小さな箱は上へ上へとのぼっていく。ーーこの上なく、幸せだった。
愛おしく感じて、あたしは真子奈をギュッと抱きしめる。
その後、そっとキスをする。真子奈は嫌がるそぶりを見せることなく、あたしをあたたかく受け入れてくれる。
良かった。嬉しい。大好き。真子奈から貰ったものはたくさんある。ーーあたしは何を返すことができるのかしら。
ハッと目が覚めると、隣にはレトがいた。
心配そうにあたしの顔を覗き込んでいる。
熱はすっかり下がったように思う。寒気が消えた気がした。
あたしはレトの頭を優しく撫でた。カーテンを閉めて、電気を付けたら、テーブルにノートの切れ端が置いてあるのが目に入った。『今日はもう帰るね。ララお大事に。無理しないでね』と書いてある。
真子奈がノートを持って、お見舞いに来てくれた。
先ほどあった事実を噛み締める。
……あたし寝ちゃっていたのね。真子奈をそのままほったらかしにして、嫌な気持ちにさせたかしら。
あれ、真子奈にりんごを剥いてもらってーー眠気がして、あれ、その次は何したんだっけ。
次に、あたしの頭に浮かんだのは、真子奈とキスする場面だった。
それは観覧車ではなく、自分の部屋でーーーー。
あっーー。
あたし、もしかして、この部屋で真子奈にキスをしたということかしら?
でも、あれはきっと夢のはず。いや、そうとも言い切れない。
混乱していたあたしは気持ちが落ち着かず、とりあえず今の時刻を確認することにした。時計を見ると20時14分だった。
両親は今日も夜遅くまで帰ってこないはずだった。忙しい二人に熱があるからと言うと心配させてしまうと思って、一人学校を休むことにした。
だけど、本当は寂しかった。誰か隣にいてほしかった。
その誰かは、誰でも良いわけではなくてーー、苦しい思いの中、あたしの頭に浮かんだのは真子奈だった。
真子奈からメッセージが届いた時、何か口実を作りたいと思った。あたしの性格的に「寂しいから、お見舞いに来て」なんて言うことはできない。
だから、ストレス発散ノートを持ってきてほしいと頼んだ。優しい真子奈は息を切らして家まで来てくれた。
具合が悪いあたしに気を遣って、真子奈は帰ろうとした。ーーすぐに引き止めた。
りんごを剥いてほしいとお願いしたら、素直にそうしてくれた。かわいいうさぎりんごにもしてくれたわ。もっとお喋りしたかったのに、急に眠気が来てしまって、ベットに横にならないとしんどくてーー、そのまま寝てしまうと夢を見た。
だけど、キスをしたのは本当のようでーー。
真子奈と初めてキスをしたのは昨日行った遊園地。
観覧車に乗った時、真子奈は『甲斐さんには、公園で私たちがキスする真似をしたところを、見られちゃったよね』なんて言ったわ。
あたしは「真似」の部分になんとなくイラッとして、からかうようなことを言った。そしたら真子奈は真っ赤になってーー。
今思えば、流されるまま勢いでキスをした部分もあったのかしら。
だけど、今日見た夢は、あたしが真子奈に本当にキスをしたいからした。
真子奈が嫌な顔をしなくてホッとした。かわいいとも思った。
あたしは真子奈のことがーーーー。
いや、まだわからない。
確かなのは飯塚や葉月、中原や他の人とはキスをしたいという感情は抱かないことだった。
真子奈にだけ、そんな気持ちになる。あたしは一体、どうしてしまったんだろう。




