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名前がコンプレックスの女の子を好きになってもいいですか?  作者: 宮野ひの


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第35話 2回目?

 私は恥ずかしかった。


 ララの家に上げて貰うことを当然のように考えていたからだ。そうだよね。熱があるなら苦しいよね。私は気持ちを切り替えて、ララに別れを告げようとした。


「……今、家に誰もいないの。真子奈、悪いけど、キッチンにあるりんごを剥いてくれない?」


「!! もちろん」


 前言撤回。ララが困っていて、私を頼りにしてくれるなら、絶対に力になりたい。


 今、家にご両親はいないんだ……。


 私が玄関に入るとララの後ろにレトがいるのが見えた。尻尾をゆらゆら振ってくれているのがわかった。


 りんごを剥くくらいお手のもの!

 高良が風邪を引いた時にも、部屋に持って行っているくらいだし。


 先にララがキッチンに入って、包丁や、りんごの在処を教えてくれた。その際も、こほこほと咳をして辛そうに見えた。


「ララは寝てて! 後は私に任せて!」


「う、うん」


 ララを強制的に部屋に追い戻した後、手を洗ってから、りんごの皮剥きに取り掛かる。


 キッチンに一人になってみると、ある意味、生活感がない家と言えるほど、さっぱりしているのが気になった。


 そういえば、ララのお父さんとお母さんの話は聞いたことがないな。……兄弟もいないのかな。


 昨日キスしたことで、気持ちは盛り上がっていた。だけどこうしてみると、私ってララのこと何も知らないや……。


 部屋の中には、シャリシャリとりんごの皮を剥く音だけが虚しく響いた。遊び心があまって、うさぎりんごにしてみた。


「ララ、できたよ」


 ララの部屋に入ると、彼女はベッドで寝ていた。辛そうに目を閉じていた。


「……ありがとう。あたしが呼んでいてなんだけど真子奈、早く帰った方が良いわ。風邪がうつると悪いから……」


「大丈夫! 私、今まで誰かの風邪ってうつったことないもん」


「今、初めて、うつることも……あるかもしれないでしょ……」


「いいの! ここにいさせて」


 ララは観念したように何も言わなくなった。私からりんごを受け取ると、「ウサギ……」と一言呟いた後、ゆっくりと食べ始めた。


 その間、私はララをじっと見つめる。……病院には行ったのかな。


 テーブルの上を見ると、市販の風邪薬が開封された跡があった。わざわざ聞くのも野暮だと思い、他に私にできることがないかを考えた。


 ララは熱があるからか、いつもの強気の態度は感じない。不謹慎ながら、かわいいと思ってしまった。


 今日はララの部屋にレトはやってこなかった。何か空気を読んだのだろうか。


 こうして、二人きりでいるのに、何かしたいという感情にはならないことにホッとしていた。男女であれば悶々とした気持ちを抱えるとか何とか、どこかで読んだ気がするが、私はそうはならなかった。


 ララが熱を出しているからだろうか。……それもあるかもしれないけど、もしかしたら、私はララを恋愛的な意味では好きではないのかもしれないとも思った。


 ーーどちらかというと、友情よりは恋愛的な意味の方が強いかもしれないけど。


 りんごを食べ終わったララは、手元にあったスポーツ飲料を飲んだ後、マスクを付けて私を見た。熱っぽい視線にドキッとする。


 ごめん。一瞬だけ、ララに触れたいと感じてしまった。

 それはララが弱っているから? それともーー。


「真子奈、今日何時までいられる?」


「えっ?」


「できるだけでいいから、一緒にいてほしい……」


 目を逸らしながら、息も絶え絶えに言う。


 ララが私を頼りにしてくれるのが嬉しかった。他の人には、そんな顔はしてほしくないという独占欲みたいなものを感じた。


「そっちに行きたいけど……熱があるから我慢ね」


 ララは一言そういうと、ベッドの中に入った。……するとすぐに、スースーと寝息を立てた。


 えっ。何。何。

 ……ちょっとドキドキしてたのに!


 突然のことに、頭がついていかなかった。


「……」


 えっと、どうしよう。


 このまま、ここにいてもいいんだよね?


 ……とりあえず、楽な姿勢になろうかな。


 混乱した頭の中、足を伸ばしたら、ララがすくっと体を起こした。うつろな目で私の方を見る。


「ララ?」


 今、寝たばかりじゃない。どうしたんだろう。


 すると、ベットから降りて私の元まで来た。さっきは、風邪がうつるからって距離を取っていたのに……。


 そのまま私の背中に手を回すと、ぎゅっと抱きしめられた。ふわふわした体を押し付けられて、緊張してしまった。ーー逃げられない。


「ララ!?」


 困惑の意も込めて、もう一度名前を呼ぶ。


 そうすると、ララは体を起こし、私と見つめ合う形になった。


 瞳が潤んでいる。かわいいなーーっと、思った瞬間、マスク越しにキスをされた。


 えっ。えっ。


 首に手を回されて、昨日よりも強引なキスだった。混乱した私は息を吸うのも忘れてしまっていた。


 ララの髪が私の頬に触れる。くすぐったくて、かと思えば良い香りがして、私はいっぱいいっぱいになった。


 ーーでも、嫌じゃない。


 しかし、ララはあっさり顔を離して、またいそいそとベッドに戻って、眠りについた。すぐにスースーと寝息を立てる音がする。


 今の何!? なんだったの!?

 もしかして寝ぼけている!?


 突然のことに状況が飲み込めず、唖然とした。


 ーー今日、2回目のキスをするなんて思わなかった。


 私は冷静になろうと、ララの部屋にあるサンドバッグを見つめることに徹した。黒いそれは、動くことなく、静かに止まったままだった。

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