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「……次が、最後の質問なんだけど」
「うん、どうぞ」
私は大きく深呼吸をした。
「雨宮くんの探している蒼い瞳の女性……に、結果として私は当てはまるわけで」
「そうだね。『前世』の話も聴けたし、十中八九、君が僕の探してた人だと思ってる」
「でも、」
「?」
「……私の『前世』と雨宮くんの『前世』が共通の世界だという証拠は、ないよね。それについてはどう考えてるの?」
「……」
……いじわるなことを言っている自覚はある。
雨宮くんに私の『前世』を話したとき、わざとふわっとした内容しか言わなかったのだ。
私は『何かをやらかして早死にしてしまった』、としか言っていない。
令嬢だったということも、王子の婚約者がいたことも伏せている。
(さあ……どう出る、雨宮くん)
ゴクリ、と唾を飲むと同時に、額に汗がじわじわと滲み出る。
「……そういえば、僕からの誕生日プレゼントはもう見てくれた?」
「……は?」
質問の答えにもなっていない言葉に、思わず力が抜けた。
「まだ見てないけど……」
「じゃあ、今は答えられない」
「……というと?」
「僕の誕生日プレゼントを見てくれれば、ちゃんと答えが出るはずだから」
……雨宮くんは、随分余裕そうな笑みを浮かべている。
余程の自信があるのだろうか。
「……わかった。プレゼント、確認するね」
部屋の隅に置いていたバッグを開けて、中身をごそごそと漁る。
すると、指に硬い箱のような物が触れる感覚がした。
(……これだ)
掴んで取り出すと、雨宮くんがくれた水色の小箱が出てきた。
元の位置に戻り、ローテーブルの上に小箱を置く。
「じゃあ、開けるね」
どうぞ、と手を差し出す雨宮くんを横目に、緊張した面持ちで小箱を結ぶリボンを解いていく。
リボンを解き、あらわになった小箱の蓋を慎重に開けると、そこには……
「!」
雪の結晶をモチーフにした、銀のブローチが入っていた。
(……これ、は)
胸の奥からぶわっと感情が溢れ、唇が震える。
「……もしかして、見覚えがあるのかな?」
ふふっと勝ち誇ったような顔をしてこちらを見つめる雨宮くんを、キッと睨みつける。
「そんなこと、」
「ないって?今にも泣きそうな顔で言われても、説得力がまるでないよ」
「うっ」
やれやれといった表情の雨宮くんに、何も言い返すことができない。
「……その反応が、僕の『前世』と君の『前世』が同じ世界線であるという、何よりの証拠だよ」
……図星、だった。
「だって……だって、これは……」
ブローチを箱から取り出し、両手で優しく包み込む。
「殿下が……っ、私にくださったブローチと、同じ……」
堪えきれず、涙がぽろぽろと零れ落ちていく。
「まあ、正確にはよく似た別物なんだけどね。……それでも、そこまで喜んでくれるとはね。贈った甲斐があったよ」
雨宮くんの、慈しむような碧い瞳が私を見つめる。
そのとき、私の脳内にはとある『前世』の記憶がフラッシュバックしていた。
~~~~~
……私は、『前世』でたった一度だけ、レイン王子から贈り物をいただいたことがある。
ーー殿下、失礼いたします。呼びかけに応じ、参りました。
普段は私の方から声をかけて逢うのが大半だったが、その日は珍しくレイン王子の方から呼び出しがあった。
ーー……あぁ、よく来たな。
ーーあの、今日は一体どのようなご用件で……
ーー……おまえに、これを渡したくてな。
スッと差し出されたのは、変わった形をした銀のブローチだった。
ーーまあ、綺麗……
レイン王子からそれを受け取り、うっとりと見つめていると、
ーー……商人曰く、雪のイメージで作られたものそうだ。……おまえに、似合うと思って。
ボッと、まるで顔に火がついたかのように熱くなっていく。
ーーあ、ありがとうございます……!大切にさせていただきますね!
ーー……そうか。
その日以来、外出する際は必ず貰ったブローチを付けるようになったのだ。
肌身離さず、お守りのように身につけていた。
……私の大事な、大切な宝物だった。
~~~~~
ぽろぽろと涙を流し続けていると、不意に視界が暗くなった。
「もう、泣かないで」
「んっ」
瞼の上から柔らかい何かが押しつけられ、そっと優しく撫でられる。
その感触から察するに、雨宮くんが指で涙を拭ってくれているようだった。
……不思議と、不快感はなかった。
「……ごめん、取り乱しちゃったね。もう、大丈夫だから」
ブローチを箱に戻し、今度は自分の手でごしごしと目を擦った。
「誕生日プレゼント、すごく嬉しかった。……ありがとう」
「どういたしまして。……ところで、白雪さん」
雨宮くんの表情が、またも真剣なものに変わり、
「君は、『スノウホワイト』で間違いないね?」
この言葉で、一気に現実に引き戻された。




