46
テストではいつも上位にいるにもかかわらず、目立つこともなく噂にもならない。
誰に聞いても、
ーー白雪……そんなやついたか?
ーー名前だけは見たことあるけど……
といった反応ばかりで、半年経っても一つの手がかりも得ることができなかった。
ーー……白雪さん?あぁ!あの頭が良い子ね。
生徒がダメなら、と教師に尋ねたところ、やはりテストでの印象が強いようだった。
ーーそうね……ごめんなさい。見た目はパッとしなくてあまり覚えてないんだけど、彼女、不思議なことにね……
ーー毎回、テストで同じ点数を取ってるのよ。どれか一つの教科じゃなくて、全ての教科の総合点で。
……なんだって?
僕は耳を疑った。
「毎度安定して高得点が取れるなんて、すごいわよね〜」と言う教師をよそに、僕は考えを巡らせていた。
……もし、意図的に行っていたとしたら、一体何のために?
そんな疑問が頭を埋めつくしていった。
この話を聞いてからというもの、僕は白雪さん自身に興味を抱くようになった。
2年生になる前、もっと視野を広げたいと考えた僕は生徒会長に立候補。
選挙の結果、進級と同時に生徒会長に就任することが決定した。
そして……高校入学から2度目の春を迎え、ついにそのときが訪れたのだ。
自分のクラス名簿に、『白雪夏芽』の文字。
……この人だ。
僕は胸の高鳴りを抑えきれなかった。
さっそく教室に入ると、
ーー夏芽ー!俺たち同じクラスじゃん!これから一年よろしくな!
ーーちょっ……!陽向、声大きいよ……
赤い瞳の陽気な男子生徒が、一人の女子生徒に向かって一目散に飛びついていった。
……あれは、確か……陽向春斗だ。
運動面に優れているのと、その明るい性格や容姿から、男女問わず人気のある男子だ。
その陽向春斗が絡んでいるあの女子は……『夏芽』、と呼ばれていたな。
……もしかして、あの人が『白雪夏芽』か?
ようやく会えた彼女は……確かに、あの教師が言っていたように冴えない見た目をしている、と思った。
何よりも、あの前髪。
まるで、誰にも目を見られたくないと主張しているかのような、ある種のシェルターに見えた。
……そうまでして隠したい目。絶対に、何かワケがある。
どうにかして近づきたい、と思ったが、一気に距離を縮めて警戒されても困る。
まずは、と彼女に近い存在の陽向春斗を生徒会に取り込み、情報を引き出すことにした。
……まあ、目のことを聞いたら明らかに敵意を剥き出しにされちゃって、それ以降は諦めざるを得なかったんだけど。
さて、どうしたものか……と思った矢先に、またしても神様が僕の味方をしてくれたんだ。
~~~~~
「……席替え、だよね」
「その通り」
よくできました。とでも言うかのように、にっこりと満面の笑みを浮かべる雨宮くん。
「これは運命だ、と思ったよ。……まさか、隣の席になるなんてね」
「……」
話を聴いて、ひとつわかったことがある。
(……この人、爽やかでもなんでもない。ただの粘着質なストーカーじゃない……)
思わず頭を抱える。
『前世』に囚われ、過去のしがらみから抜け出せない可哀想な人。
そんな印象を受けた。
……ただ、
(……これで、雨宮くんがレイン王子の『前世』を引き継いでいるということが、本人によって証明されてしまった)
一縷の望みは儚く砕け散ったが、いくつか気になる点があった。
「……えっと、何個か質問したいことがあるんだけど……いいかな?」
「どうぞ」
……なんだか、雨宮くんが妙にソワソワしているように見えるのは気のせいだろうか。
突っ込む気力もないので、さっそく質問を始めることにした。
「じゃあ、一つ目。……あの中間テスト、雨宮くんが何か操作したりとかしてないの?」
雨宮くんと私が同率1位になったテストだ。
……何もなしにあんな結果になるなんて、有り得ない。
「あぁ、あのテストね。……さすがに、他人の成績を操作することなんてできないよ」
雨宮くんがそこまで非人道的ではなかったことに、とりあえず安堵する。
「でも、自分の成績ならどうにかすることができる。」
「!」
……まさか。
「僕は、白雪さんがいつも取っている点数を分析して、自分が白雪さんと同じ点数になるように調整しただけだよ。……さすがに、全体の平均点が下がってそれが1位になるのは予想外だったけど」
顔からサーッと血の気が引いていくのを感じる。
(……そういえばさっき、先生に私のテストの点数について聞いたって言ってたっけ)
「なんで、そこまでして……」
「言っただろう?……君に、近づきたかった、って」
背筋がゾワっとした。
目的のためには手段を選ばない。
……末恐ろしい男だ。
「……いずれは、生徒会に入ってもらいたいと思ってたからね。本当に、僕は運がいい」
「……」
元・書記の子の悲しげな顔が頭に浮かんだ。
たとえ、いくつかは偶然の出来事であったとしても……まるで、雨宮くんの手の上で転がされているような気がして、胸が痛んだ。




