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そして迎えた、処刑当日。
処刑は、僕が自ら行うことにした。
従者に連れられ、後ろ手に手首を縛られた女が処刑場に現れる。
ーー貴殿はもっと利口な方だと認識していたのだが。……実に残念だよ。
ーーそんなっ!殿下……!
大粒の涙を流す元・婚約者の姿に、僕は何の感情も湧いてこなかった。
……この場にきてまでまだ縋ろうとするとは、愚かな女だ。
従者が下がるのを確認すると、大きく剣を振りかざし、女の胸元へと突き刺す。
ーーっ!
声にもならない叫びを上げた女は、そのままドサッと倒れ伏した。
剣を抜くと、血がドクドクと溢れ出てくる。
……心臓の位置から少しズレたせいか即死には至らなかったが、じきに出血多量でこいつは死ぬだろう。
呻き苦しむ女の様子を、見下すように目を細めて眺める。
……よく見ると、何か口をパクパク動かしているような。
その瞬間、バチッと目が合った。
ーーレイン、さま……
女は極限状態の中で、名を……そう、僕の名を呼んだのだ。
ーー……っ!
急に名を呼ばれて明らかに動揺した僕とは対照的に、女は徐々に目の光が失われていき……そのまま、息絶えた。
その顔は、『魔女』と称されるに似つかわしくない、穏やかな表情を浮かべていた。
……どうして、今更僕の名を……
そこで、ハッとした。
この女から名を呼ばれたのは、これが初めてだったということ。
そして、最期に見せた表情は、彼女と同じ……愛しています、と語りかけてくるような優しい顔をしていたこと。
それらに気づいた僕は、愕然とした。
僕は今までずっと、勘違いしていたのだ。
あの女は……元・婚約者は、僕を王子としてではなく、一人の愛する男として見ていてくれていたということに、気づいていなかったのだ。
……僕は、一体なんてことを……
その場に跪き、すでに冷たくなった元・婚約者の頭を丁寧に持ち上げる。
いつか宝石のようだと感じた蒼い瞳は、すっかり色褪せてしまっていた。
……愚かなのは、僕の方だった。
勝手に決めつけて警戒せず、もっとこの人に寄り添っていたら……ちゃんと向き合っていたら、違う未来があったんじゃないか。
そう思わずにはいられなかった。
ーー……うぅっ……
混乱する従者たちをよそに、僕は女の頭を抱きながら泣いたのだ。
……この罪を背負いながら、これからは生きていく。
そんな覚悟を胸に抱いて。
この処刑以降も、どこか頭の片隅に彼女の最期の顔がちらつき、忘れることができなかった。
弟に責められたときも。
王に即位したときも。
披露宴を上げたときも。
床に伏し、看取られているときも。
……あぁ、もし願いが叶うなら。どうか、神様。
ーーもう一度、彼女に逢って謝りたい……
~~~~~
……僕は、主に処刑の日の夢を見るようになった。
今でも、彼女の顔は脳裏に焼き付いているよ。
そして、夢を見る度に……彼女に謝らなければならない、という使命感が強くなっていった。
こうして生まれ変わったのは、彼女に逢わせてあげようと、神様が気を利かせてくれたのではないか……と考えるようにもなった。
それから僕は、あらゆる情報網を駆使して蒼い瞳の女性を探そうと試みた。
僕が『前世』と同じ碧い瞳を有しているなら、彼女も同様に『前世』の瞳を持っていると考えたからだ。
……けれど、見つけることはできなかった。
そのとき両親はというと、やはり喧嘩の絶えない毎日を過ごしていた。
やがて母親は疲弊し、父親も家に帰ってくることが少なくなっていった。
僕の味方をしていてくれた母親も、いつしか僕を避けるようになり……
……それでも、朝の弁当は欠かさず続けてくれていた。
……母親には、感謝しているんだ。
勉強との両立は辛くなるときもあったが、僕はめげずに蒼い瞳の女性を探し続けた。
そして……彼女を見つけることができないまま、僕は高校生になっていた。
『前世』で彼女は勉学に秀でていると聞いていたので、藁にもすがる思いで偏差値の高い学校を選んだんだけど。
そこで目をつけたのが……白雪さん、君だよ。




