44
『前世』で僕は、とある国の王族の嫡男として生を受けた。
そして父王の崩御後、王に即位し国を治めることになる。
夢に見るのは、即位する前のまだ王子だった頃の話だ。
~~~~~
幼少期から僕は、王子として振る舞わなければいけないことに窮屈していた。
度々開かれるお茶会や舞踏会に参加すれば、多くの令嬢が僕に群がってくるのだ。
ーー殿下!次は私と踊ってくださいませ!
ーー違うわ!次は私よ!
僕を巡って、ぎゃあぎゃあと騒ぐ令嬢たち。
……はっきり言って、かなり迷惑だし不快だった。
でも、立場上それらを無下にするわけにもいかなくて。
ーー……順番を守っていただければ、ちゃんと皆さんと踊りますので。ね?
ちょっと優しくすれば、令嬢たちはすぐさま大人しくなる。
……王子の肩書きにしか興味のない、卑しい女。
僕に近づいてくる令嬢たちは皆そうなのだと思っていた。
あるとき、そんな僕にも婚約者ができた。
……もちろん、政略結婚として親が勝手に決めたものだ。
相手は名のある公爵家の令嬢で、何度か社交界でも見かけたことがあった。
自ら僕に近づいてくることはなかったものの、僕と目が合う度に頬を赤らめ、目を背けていたのが印象的だった。
そして、彼女は……まるで宝石のような、美しい蒼色の瞳を持っていた。
彼女には他の令嬢とは違う何かを感じていたが、今回の縁談の話が持ち上がったことで、それは僕の気のせいなのだと悟った。
……彼女も、王子の婚約者という称号に目が眩んだに違いない。
そう考えていた僕は、どことなく彼女を警戒するようになった。
ーー殿下!あの……!
ーー……なんだ。
ーーっ……いえ、なんでもありません……
彼女は常に緊張している様子で、肩や手をビクビク震わせていた。
こちらとしては普通に振る舞っているつもりでも、彼女には冷たく見えていたかもしれない。
ーー……そんなに緊張しなくてもいい。
そう声をかけると、彼女はパッと華が咲いたような笑顔を見せた。
こんな風に、ある程度の距離感を保ちながら、でも警戒は怠らずに彼女と接していた。
そんな中、成長するにつれて、度々彼女の黒い噂を耳にするようになった。
……やはり、ろくでもない女だったのだな。
失望はしたものの、彼女の前では普段通りに振る舞い、噂については知らないフリを続けた。
そして、僕の運命を変えた日。
その日、僕は誰にも何にも言わず、一人で城下に出向いた。
度重なる公務に飽き飽きしていたため、こっそり城を抜け出したのだ。
当然、民に王子だとバレないよう変装もした。
街の市場を歩いていると、そこには僕の知らなかった世界が広がっていてとても新鮮だった。
すっかり夢中になっていた僕は、人の流れに乗り遅れてドン!と誰かにぶつかった。
ーーあ……!
僕とぶつかった人がその場に倒れ込む。
やばい、と直感した僕はすぐにその場から離れようとした。
が、しかし、
ーーちょっと!アナタでしょ、ぶつかったのは!ちゃんと謝りなさいよ!
倒れていた人が、咄嗟に僕の手首を掴んで大声で叫んだのだ。
……初めてだった。僕に媚を売らず、対等な人間として話しかけられたのは。
ドクン、と大きく胸が高鳴る。
……なんだろう、この気持ち。胸がギュッと締め付けられるような……
俗に言う一目惚れだとわかったのは、城を抜け出したことがバレ、従者に連れていかれた後のこと。
これが……後に、僕の妃となる女性との出逢いだった。
それから僕は、城下で出逢ったあの女性のことが忘れられず、あらゆる手段を用いて女性の素性を調べ上げた。
そして、秘密裏にその女性と逢瀬を重ねる一方で、ますます婚約者への当たりが強くなっていった。
ーー……殿下?どうされましたか?
ーー……僕は今、疲れているんだ。だから、君の相手をしている暇はない。……休ませてくれないか。
ーー……承知、しました。
婚約者が引き下がった後も、頭の中はあの女性のことでいっぱいだった。
……彼女に、逢いたい。
そんな想いを、日々募らせていった。
それからしばらく経ったある日、従者がこちらへ急いで駆けてくるのが見えた。
ーー殿下!大変です!
従者の様子から、只事ではないと察したと同時に、どこか嫌な予感がした。
ーー……一体、何があった。
ーー実は……あの方が、殿下の婚約者殿に……
それだけで、何があったかを理解するには十分だった。
ーー……すぐに支度を。
ーーはっ!承知しました。
ーーそれと……父王に、謁見の手配を頼む。
ーー……御意に。
……彼女に危害を加える者は、何人たりとも許さない。
このときの僕は、怒りで我を忘れていたように思う。
その後、父王との謁見を果たした僕は、婚約の破棄と……処刑執行の許可を、申し入れた。
ーー……おまえがそう言うのであれば、好きにすればよい。
ーー……ありがとうございます、父上。
こうして許可を得た僕は、すぐさま実行に移るべく準備を始めた。




