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「へ?泊まる?雨宮くんが?うちに?」


どうやら私が少し席を外している間に、とんでもない話が進んでいたようだ。


「そうそう!ダメ元で聞いてみたんだけど、なんとオッケーしてくれたの!」


きゃあきゃあと騒ぐ母を、ジト目で睨みつける。


「どうせまた、お母さんが無理やり丸め込んだんでしょう?」

「いやぁ、そうでもなかったわよ?確かに少し悩んでいたようだけれど、快く承諾してくれたわ」


にこにこと話す母に呆れた私は溜息をついた。


この数時間足らずで、母はすっかり雨宮くんの虜になってしまったらしい。


(学校にいる若い女子だけでなく、母親世代にも好かれるなんて……)


恐るべし、雨宮くん。


「……ていうか、よくお父さんが許したね?」

「そうなのよ。意外とお父さんも、冬貴くんのこと気に入ってるみたい」


……そうなのか。

最初は、気絶しそうなほどショックを受けていたのに。


(雨宮くん、家に帰らなくても大丈夫なのかな……?)


と心配になったが、以前雨宮くんの母親について尋ねた時に、あまり反応がよくなかったことを思い出した。


(……やっぱり、もしご両親と不仲だとしたら、むしろ帰りたくないとか……?)


悶々と考えを巡らせてる最中に、ふと気づいた。


「あれ?そういえば、雨宮くんはどこに行ったの?」


きょろきょろとリビングを見渡すも、雨宮くんは見当たらず、父の姿もなかった。


「あぁ、冬貴くんなら、今お父さんと一緒にお風呂入ってるわよ」

「な……」


なんですってぇぇぇ!?という渾身の叫び声が、家中に響いた。



~~~~~



「さて……雨宮冬貴くん、といったかな?」

「……はい」


男が二人、小さな湯船に所狭しと浸かっている。


二人は顔を合わせることなく、ぽつりぽつりと会話を交わしていた。


「……うちの娘が、世話になっているようだね」

「いえ、そんな……」

「……あの子は昔から友達の少ない子だったから、君のような人がいると知って安心したよ。……娘と仲良くしてくれて、本当にありがとう」


優しげな瞳に、一瞬男の娘の姿が映ったような気がした。


「……ところで君は、夏芽のことをどう想っているのかな?」

「……どう、とは」

「どうって、言葉の通りだよ」

「……」

「……やっぱり、父親の前では答えづらいかい?」


幾ばくかの沈黙の後、


「……正直、まだわからないです」

「……」

「僕はずっと、そういったことを避けてきました。……こんな僕に、人を愛する資格があるのか、って」

「……」

「彼女……白雪さんは、素敵な女性だと思います。ですが……この想いが、果たして恋と呼べるものかどうか、まだ僕には判断できていないんです」

「……そうか」


ザバッと湯船から上がった小太りの男は、そのまま扉の方へと向かう。


その男が扉に手をかけたところで、まだ湯船に浸かっている若い男が呼び止めた。


「あの!……伺いたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」

「……なんだい」


湯船に入ったまま立ち上がった若い男は、軽く深呼吸してこう問いかけた。



「彼女の瞳の色のこと、ご存知ですよね?……そのことについて、どうお考えでしょうか?」



小太りの男は、その質問に目を丸く見開いた。


「君は……見たのかい?あの子の瞳を」

「……はい」

「そうか……」


ふぅ、と息を吐いた小太りの男は、その問いかけに対して答えを紡ぎ出した。


「初めは驚いたよ。私たち夫婦は、どちらも黒い瞳だったからね。でも、」

「……」

「……自分の子が、可愛くないわけがないだろう?」


今度は、若い男の方がハッと目を見開いた。


「あの瞳はただの個性であって、それ以外の何者でもない。と私は思っているよ」

「……そう、ですか」

「これで、君の求める答えになったかな?」

「はい……ありがとう、ございます」


若い男は、小太りの男に向かって深々と礼をした。


「それなら、よかった」


小太りの男は安堵の表情を浮かべると、そのまま風呂場を立ち去った。


パタン、と扉が閉められるまで、若い男は頭を下げ続けていた。



~~~~~



「……」


寝ようとしているものの、眠気がくることはなく、目はギンギンに開いていた。


(どうしよう。全く眠れない)


おそらく原因は、雨宮くんと同じ屋根の下で寝ているということを意識してしまうからだろう。


(落ち着け私。雨宮くんは1階のリビング、私は2階の自分の部屋で寝ているんだぞ。同じ室内にいるわけではないんだから)


雨宮くんには、来客用の布団をリビングに敷いてそこで寝てもらっていた。


(大丈夫。彼は夜這いとかそんな行為なんてしない人だよ……たぶん)


……ていうか、私なんかにそんなことするわけないよね!と思い直した。


(ううっ、自意識過剰になっちゃって恥ずかしい……)


恥ずかしさのあまり、布団を顔まで覆い尽くした。


しょうがない、羊でも数えるか。と思ったその時だった。



コンコン


「……白雪さん、まだ起きてる?」


なんと、部屋の外から雨宮くんの声が聞こえたのだ。


「!?」


(え?え?何事?)


聞き間違いかと思いそのまま黙っていると、再び扉をノックする音がした。


「……もう寝ちゃったかな。話したいことがあったんだけど」


(話……?)


なんだろう、気になる。


どちらにせよ、このまま眠れる気もしなかったので、


「……まだ、起きてるよ?」


と、扉の向こうにいる雨宮くんに返事をした。

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