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「陽向に呼び出された時、もしかして?とは思ったけど……」
今日が自分の誕生日なのは知っていたし、陽向は毎年何かしらプレゼントをくれるので、今回もそうかな?とは予想していた。
しかし、
「まさか、雨宮くんと東雲さんまでいるなんて……」
この二人の登場は全くの予想外だった。
「へへっ、驚いただろ?」
陽向がふふんっと得意気に鼻を鳴らす。
「ちょっと前に、陽向くんから誕生日のこと聞いてね?教えてくれてもよかったのに……夏芽さんったら」
「だ、だって、」
特に教える必要もなかったから……と口にしかけたが、さすがにそれはまずいだろうと思いとどまった。
「そうだよ、白雪さん。僕たち、友達じゃないか」
雨宮くんが放った『友達』という言葉に、なんだかくすぐったい気持ちになる。
(『友達』……か)
思えば、これまで『友達』と呼べるような関係になった人はほとんどいなかった気がする。
前世ではいわゆる花嫁修業に明け暮れていたため、家族やレイン王子以外となると、ときどき行われる舞踏会でしか交流する機会はなかった。
(とはいっても、基本はレイン王子の傍にいたから、軽く挨拶する程度しかできなかったし)
あえて言うなら、彼女を取り囲んだときに一緒にいた子たちだろうけど。
(あれは、たまたまお互いの利害が一致したあのとき限りの関係だったから、『友達』と呼べるほどではないよね)
じゃあ今世はというと、
「おーい、夏芽?嬉しすぎて放心でもしてるのか?」
目の前で手をブンブンと振られていることに気づきハッとする。
いつの間にか前にきていたその男の顔をじっと見つめた。
(陽向はなあ……『友達』というよりは、『幼なじみ』や『腐れ縁』の方が合ってる気がするんだよな)
瞳の色のこともあって、なるべく人目を避けるようにして生きてきたので、陽向を除き他者と絡むことなんてほとんどなかった。……最近までは。
「なんだよ、人の顔をそんなにじろじろ見て。……照れるだろ」
頬を赤く染めた陽向が視線を逸らした。
「あぁ、ごめん」
考え事をしていたとはいえ、確かに軽率な行動だったな。と心の中で反省する。
傍から「ひゅーひゅー」と囃し立てる声が聞こえたような気がするが、無視する。
「東雲さんも、雨宮くんも、わざわざありがとう」
「いえいえ〜『友達』の誕生日を祝うのは当然でしょ!ね、会長?」
「うん。今日は本当におめでとう、白雪さん」
そう言うと、二人はすっと手を前に出した。
「それ……もしかして、」
「もちろん、プレゼントだよ!」
東雲さんの手にはピンクの小包、雨宮くんの手には水色の小箱が乗っていた。
「私からは手作りのお菓子を」
「僕からは……ここはあえて、秘密にしようかな」
人差し指を立てて自身の口に添える雨宮くん。
「えっ、何それ気になるんだけど」
人には言えないような物なのかな?と内心ヒヤヒヤする。
「大丈夫。毒とかではないから」
(そんなにこやかに言われましても……!)
いつも通りの爽やかな笑みに裏はない……と信じることにしよう。うん。
半ばいい聞かせるようにして、心を落ち着かせる。
「俺からはこれな!」
陽向が差し出した物を見て、私は目を輝かせた。
「こっ、これは……!前から欲しいと思ってた参考書!」
以前、陽向と一緒に帰っている途中で本屋に寄ったことがあった。
そのときにぼそっと、
ーーこの本いいなぁ……けど、今は金欠だから、今度お小遣い貰うまで我慢しなきゃな……
と呟いていたのを聞かれていたんだろう。
「だろ?確か前言ってたなーと思って。もう買ってたらどうしようかと思ったけど、その様子じゃまだみたいだな」
ニヤリとしたり顔をする陽向。
「うん。まだ買ってなかったから嬉しい……!ありがとう、陽向」
「どーいたしまして」
三人からそれぞれのプレゼントを受け取った私は、慎重に、丁寧に、鞄の中にしまった。
「みんな……本当に、ありがとう」
こんな風に、私を友人として優しく接してくれる人がいる。
それだけでもう、胸がいっぱいだった。
「えっと……三人とも、この後の予定は?」
「俺はさっきも言ったけど、部活に顔出すつもりだ」
「私はこれからバイトだ〜」
「僕は特に何もないから、家に帰ろうと思ってたよ」
「そっか……じゃあ、ここで解散だね」
各々が次の予定に向けて動きだす。
「白雪さんは?」
「私も、雨宮くんと同じで家に帰るつもりだけど」
雨宮くんに問いかけられたのでそう答えるのと、
「じゃあ、家まで送るよ」
「えっ!?」
予想だにしなかった台詞に心臓がドクンと跳ねた。
「そこまでしてもらうのは申し訳ないよ」
「ううん。僕がそうしたいだけだから」
その後も何度かやり取りするも、いいように言いくるめられて結局帰りを共にすることになった。
「次に会えるのは来年かな?」「初詣一緒に行こうぜ!」などと会話を交わした後、陽向と東雲さんは先に生徒会室から出ていった。
「そろそろ僕たちも行こうか」
「……そう、だね」
雨宮くんと共に生徒会室を後にする。
ガチャリ、と鍵をかける音が、頭の中に重く響いた。




