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長かった一日が終わり、土日を挟んで迎えた月曜日。
登校すると、すでに陽向が席に座っていた。
「陽向、おはよう」
「はよー」
(……うん。いつも通りの陽向だ)
普段と変わらない様子の陽向を見て、ほっと胸を撫で下ろす。
(球技大会が金曜日でよかった。……おかげで、気持ちを整理する時間ができたから)
今までのように、幼なじみとしての関係性を保てるかどうか不安だったものの、どうやら杞憂に終わりそうだ。
陽向の気持ちはありがたかったが……また、『前世』のように恋愛に溺れて自我が狂ってしまうのではないかと考えると、怖くなった。
だから、『普通』に暮らすためには恋愛は不要だ。と、結論づけたのだ。
(いつかは……とは思うけれど、今は勉強に集中しなきゃ)
12月を目前に控えたこの時期、期末テストが近づいてきていた。
(12月に入るとすぐに期末テストがある。……前回のような失態は、許されない。気合いを入れ直さないと!)
パンッ!と両手で頬を叩いたその時、
「白雪さん、おはよう」
「!」
いつものごとく爽やかな笑みを浮かべながら、雨宮くんが登場した。
「お、おはよう。雨宮くん……」
ーー……俺は、雨宮や副会長にも『前世』があると思ってる。
先日、陽向が言っていたことが頭をよぎり、なんだか少し気まずい気持ちになる。
(確かめようにも、直接本人に聞くなんて恐ろしいことはできないよ……)
「……また何か、悩み事かな?」
「、ううん!大丈夫!もうすぐ期末テストだなぁって、それだけ!」
「あぁ……もう、そんな時期なんだね」
雨宮くんの口角がゆるりと上がる。
(本当に、この人は……)
中間テストのことを思い出して笑っているのか?と思い、目線を上げてみると、
(え?)
予想とは違って、眉は下がり、碧い瞳はどこか寂しげに揺れているように見える。
(なんで、そんな顔……)
「もうすぐ12月だなんてね……夏休みが明けてから、あっという間だったなぁ」
「……言われてみれば、そうだね」
9月からの出来事を頭に思い浮かべる。
席替えからのいじめに始まり、テストに生徒会に球技大会など、目まぐるしい日々だった。
(……って、なるほど。そうか)
「雨宮くんが隣の席にいるのは、12月までだもんね」
私のクラスでは学期ごとに席替えが行われるため、今の座席は12月いっぱいで終わりなのだ。
「うん。僕は、白雪さんが隣でよかったなって思ってるし、実際すごく楽しかった」
柔らかな、優しい表情で雨宮くんが告げる。
「できれば、ずっとこのままがいいな。……なんてね」
「!」
思わぬ台詞に、心臓がドキリと跳ねた。
「い、今は、生徒会で一緒に活動してるでしょ?それに……比較的ペアワークがやりやすいから、ってことだよね?」
「……ふふっ。それは、どうかな?」
挑発的な視線を向けられ、ぐっと言葉に詰まる。
(雨宮くんの考えが、まるでわからない……)
ただ単にからかわれているだけなのか、それとも……
(……本気?いや、まさかそんなことは、)
ない。と、邪念を振り払うようにブンブンと首を振った。
「……とにかく!あと約1ヶ月の間だけだけど、よろしくね」
「うん。こちらこそ」
そう言って微笑んだ雨宮くんは、いつもの爽やかな表情に戻っていた。
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それからは、授業を受けたり、ときどき生徒会の活動もしたりと、特に変わったこともなく時が流れていく。
まさに理想としていた『普通』の生活を体現できているようで、とても機嫌のいい毎日を過ごしていた。
(少し心配だったけど、期末テストも良い結果だったし、これでしばらくは安泰だな)
期末テストは、1位が雨宮くんで2位が東雲さん、私は5位という自分としてはベストの結果を残すことができた。
足どり軽やかに帰り道を進んでいると、
「あ……」
不意に顔に冷たい感触がしたので、空を見上げる。
「雪だ」
しんしんと、雪が降り始めていた。
私はすぐさま持っていた折りたたみ傘を差して、難を逃れる。
地面には、次第に雪が積もっていく。
そんな光景を眺めながら、私は物思いにふける。
(……雪、か)
自分の名前に縁あるその物体を忌々しげに見つめたところで、ふと気づいた。
「あ、そういえば、」
もうすぐ自分の誕生日だったな、ということに。




