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35

陽向の手から、熱がじわじわと伝わり広がっていく。


(……熱い、な。それに、微かに鼓動も感じる……)


トクトクと脈打つ波から、陽向の想いも一緒に流れてくるような感覚。


その波は私の鼓動と混ざり合い、今聴こえているのはどちらの心臓の音なのか、段々わからなくなってくる。


「あ、あの、陽向、」


この状況にいたたまれなくなってきた私は、思わず音を上げた。


「その……私のことを、『白雪夏芽』として見てくれてる。っていうのはわかったから……手、手を、」

「手?……ってうわ!?ごめん!」


バッと陽向の手が離れ、私も咄嗟に自身の手を後ろに引っ込める。


手は離れたものの、まだ体温は高いままだ。


熱が冷める前に、と、私はすうっと大きく息を吸って陽向に告げた。



「陽向が、私に『前世』のことを話してくれたように……私も、その誠意に応えたい」


すると、それまで百面相していた陽向がハッと我に返り、こちらに振り向いた。


「陽向がさっき言ってた通り……私も、『前世』の記憶を取り戻してる」

「……」


真剣な表情で見つめてくる陽向に応じるべく、視線を交わす。


「だから、私も話すよ。……『前世』のことを」



~~~~~



最初に『前世』の記憶を取り戻した経緯についてざっくりと説明した後、『前世』で何があったのかを語った。


幼少期の過ごし方。

レイン王子との関係性。

……嫉妬に塗れ、暴言を口走ったあの事件についても。


『氷の魔女』として生きていた頃について、思い出した分はなるべく包み隠さずに話したつもりだ。


私が話している間、陽向は嫌な顔ひとつせずに、時折頷いたり相槌を打ったりしながら聞いてくれた。



~~~~~



全てを話し終えると、


「……いろいろ、大変だったんだな」


陽向が、重く呟いた。


「……まあ、特に後悔とかもしてないし!正直、今の人生の方がのびのび自由に過ごせてるから楽しいんだ〜」


すっかり暗くなってしまった空気を振り払うように、大きく伸びをした。


「そっ、か」


そんな私の様子を見た陽向は、ほっと一息ついて安心したようだ。


「……前に、私が『普通』の暮らしがしたい。って陽向に言ったの、覚えてる?」

「あー、そういえばそんなこと言ってたな。……もしかして、それも『前世』が影響してるのか?」


……さすが、陽向。察しがいい。


「うん。そうだよ。……今も、その思いは変わってない」

「……」

「だから、その……今はまだ、恋愛する気力もなくて……陽向の想いには、すぐには応えられない……です」


しどろもどろになりながらも、なんとかして今の気持ちを伝えようと、ひとつひとつ言葉を紡いだ。


「……そっか。うん。やっぱり、そーだよな」


それまでは私と顔を合わせていた陽向が、そっぽを向いて顔を伏せる。


「……ほんとに、ごめん」

「なんで夏芽が謝るんだよ。……いきなり告って困らせたのは、俺だし」

「そんなこと……!」


ない。と続けようとしたが、それは鼻をすする音によって阻まれた。


「陽向……」

「……悪いけど、今の俺の顔、おまえに見せたくないから、もう帰っていいよ。……こんな遅い時間に呼び出して、悪かったな」


そう言われてふと時計を確認すると、もうすぐ日付が変わろうとしていた。


「親御さんも、心配してるだろ」

「『陽向の家に行ってくる』って言ってきたから、大丈夫かな?と思ったんだけど……」

「ばかだな。……一応、俺は男だぞ?」

「あ……」

「ほらほら、わかったならさっさと帰って寝ろ」


顔は伏せたままで、手をシッシッと振る陽向。


「……うん。そうする」


ベッドから立ち上がった私は、そのまま部屋のドアの前まで進み、ドアノブに手をかけた。



「……今日は、ありがとう」

「……おう」

「あと、球技大会三種目優勝おめでとう。……カッコ、よかったよ」

「!」



ガチャリ、とドアを開けて部屋を出ると、そのまま振り返らずにバタン、とドアを閉めた。


「……はぁ」


足の力が抜けてずるずるとその場に座り込みそうになったが、なんとか力を振り絞って自宅に帰った。


~~~~~


一方の、陽向は。


「……はー」


さっきまで夏芽が座っていたベッドにゴロンと寝転がった。


「なんだよ、最後のアレ。……反則、だろ」


すでに涙でぐちゃぐちゃになった顔を手で覆うも、頭の中では別のことを考えていた。


(……おそらくだが、副会長はまだ『前世』の記憶が戻ってないように見える。問題は……)


「雨宮、なんだよなー……」


愛想が良さそうに見えるが、腹の中では何を考えているかわからない。そんな印象だった。


「……()()()


ぼそっと零した言葉は、誰にも届くことなくベッドの中へと沈んでいった。

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