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「そんな……」
陽向が告げた衝撃の事実に、私は愕然とした。
(じゃあ、助けてくれたあの時からすでに陽向は……)
「夏芽の蒼い目を見たとき、フラッシュバックが起きて頭に『前世』の記憶が溢れてきたんだ。……そして、おまえと『氷の魔女』の姿が重なった」
「……」
「そこで俺は思った。……これは、運命だ。あの時助けられなかった悔しさを晴らす、絶好の機会が訪れたんだ、って」
爛々と、陽向の赤い目が輝く。
「今度こそ、おまえを守り抜く。最初に助けたとき、俺はそう誓ったんだ」
ゆらり、と影が動いて、陽向がじりじりとこちらに近寄ってくる。
後ずさろうにも、ベッドに座っている私に逃げ場などなかった。
(……何か、言わないと)
このまま陽向のペースに乗せられているのは危険だと感じた私は、反撃を試みる。
「……陽向は、私のことをその『氷の魔女』と重ねてるみたいだけど、私は『白雪夏芽』であって『氷の魔女』じゃない。……それをわかってて告白したの?」
すると、陽向は「ははっ」と乾いた笑いを零す。
「これはあくまで俺の仮説でしかないんだが……今のこの世界では、瞳の色は基本、黒色か茶色っていうのはおまえも知ってるだろ?」
「それは……そう、だけど」
「それなのに、俺の瞳は『赤色』でおまえは『蒼色』だ。そして、俺には『前世』の記憶がある。……これがどういう意味なのか、おまえなら察しがつくんじゃないか?」
「……!」
(つまり、陽向が言いたいのは……)
微かに私の目が見開いたのを見逃さなかった陽向が畳み掛ける。
「そうだ。おまえも気づいたんだろ?一般とは違う瞳の色を持った人間には『前世』が存在しているのではないか、ということに」
「……っ!」
それはまさに、私が予想した通りの答えで。
(……最悪だ)
もし、この仮説が正しいとなると、私と陽向だけの問題ではなくなってくるのだ。
「そっ、それじゃあ、もしかして、」
「あぁ、そうだ。……俺は、雨宮や副会長にも『前世』があると思ってる」
「!!」
……考えられる可能性の中で、最も嫌なパターンだ、と思う。
(雨宮くんはレイン王子の生まれ変わりで、東雲さんはレイン王子が恋に落ちた平民女性の生まれ変わりかもしれない。……ってことになるよね?おそらくだけど)
想像しただけで身体が震えた。
「まあ、あの二人に『その』記憶があるかどうかは俺も知らないがな。……可能性としては、十分有り得るってことだ」
私は思わず頭を抱えたくなった。
「……ところでさ、夏芽。おまえは、一体どうなんだ?」
突然、話の矛先が自分に向いてドキッとする。
「俺の見立てでは、『前世』の記憶が戻ったと踏んでるんだが。……しかも、割と最近の話だろ?」
(うっ……!)
陽向の言葉がグサグサと胸に突き刺さる。
「……夏芽とは、付き合いが長いからな。おまえが考えてることなんて、なんとなくでもわかるようになってくるさ」
(……陽向には全て、最初からお見通しだったのかな)
観念して洗いざらい話そうか、と思った時、陽向の口の方が先に開いた。
「そういえば、さっきの質問に答えてなかったな。……私は『白雪夏芽』であって『氷の魔女』じゃないのに、それをわかってて告白したのか?ってやつ」
「あ……」
「……確かに、最初は『氷の魔女』としてしかおまえを見てなかったかもしれない。けど、」
「……けど?」
「今なら、はっきり言える。俺は、『氷の魔女』という前世も引っ括めて、『白雪夏芽』というひとが好きなんだ。……って」
言い終えた陽向は、急に恥ずかしさが込み上げてきたのか、みるみるうちに目の色と同じくらいに顔が赤く染まっていく。
「!」
そんな陽向につられて、私まで顔が熱くなってきた。
「おまえと一緒に過ごすうちに……『白雪夏芽』という人物を一つ一つ知る度に、使命感でがんじがらめになった俺の心が、少しずつ解けていく感じがしたんだ」
陽向は、自身の胸にそっと手を添える。
「いつまでも過去に囚われてないで、これからの未来に向き合わないと。……って思えるようになったのは、夏芽のおかげだ。俺は、もっともっと夏芽のことを知りたいし、一緒にいたいと思ってる。だから……」
胸に添えた手が、今度は私の手の方に伸びていく。
「俺が、ちゃんと『白雪夏芽』を見てるってことを、知ってほしい」
ぎゅっ、と少し熱を帯びた手で握られた。




