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それからしばらくして、俺は公務で他国に長期間出向くことになった。


……ここ数日、どことなく彼女の様子がおかしいと感じていた俺は、不安な想いを抱えながらも他国へと旅立った。


慣れない国での暮らしに最初は四苦八苦していたが、少しずつ感覚を掴み始めてきた、そんなある日のことだった。



兄である第1王子が『氷の魔女』との婚約を破棄し、さらには『氷の魔女』を処刑したとの報せが入ったのだ。



ーー……そんな、まさか。


居ても立ってもいられなくなった俺は、すぐさま自国に戻り、兄を問いただした。


ーー……何故、彼女を殺した。兄さんの婚約者じゃなかったのか!


ーーそうだ。()()婚約者だ。……だから、おまえには関係のない話だろう?


ーーっ!


……確かに、その通りだ。

けど、どうしても引くわけにはいかなかった。


ーーなんで、なんだよ……っ 彼女はただ、兄さんのことが……


ーー……それが、どうした。


その時に向けられた眼差しは、あまりにも強い殺気に満ちていて……今でも忘れられないくらいこの目に焼き付いている。


……こんなに感情を剥き出しにした兄を、俺は初めて見た。


普段の冷静沈着な態度からは全く想像もつかない兄の姿に、怯んだ俺は唾を飲み込んだ。


ーーあの女は、一番やってはいけないことをした。だから、殺した。……それだけだ。


兄はそう告げると、俺に背を向けてその場を離れていった。


俺は次の言葉を投げかけることもできず、目の前から去りゆくその背中をただただ眺めることしかできなかった。


ーー……俺は、なんて無力なんだ。


爪がくい込みそうなほどに強く拳を握りしめながら、何もできない己の無力さを呪った。



その後、実際に何が原因で彼女に処刑という判断が下されたのかを探ってみた。


どうやら兄が懇意にしていた女性が『氷の魔女』の反感を買い、そこで『氷の魔女』は他の令嬢たちを侍らせてその女性に詰め寄り、暴言を吐いたらしい。


その女性は平民だったが、兄の目に止まったことで次の婚約者になることがほぼ決まっている……とのことだった。


ーーそんな……じゃあ、彼女は、


兄が好きな女性とくっつきたいがために、体良く切り捨てられたも同然じゃないか。


その事実を知った俺は項垂れ、そして決意した。



ーー俺が、次の国王になる。


……あんな自分勝手な奴に、国を任せてたまるか。


心の奥底からメラメラと闘志が溢れてくる。


ーー今度こそ、大事なひとをちゃんと守れるように……強く、なってやる。



それからというもの、俺は死にものぐるいで勉学や鍛錬に励んだ。


……が、しかし。兄を超えることは叶わず。


兄の補佐役として、一生を終えたんだ。



~~~~~



「……とまあ、これが俺の『前世』だ」

「……」

「ちなみにだが、『()()()』とは異母兄弟だ。年は同じだったが、向こうの方が誕生日が早かったんだ。だから、あっちが第1王子で()が第2王子になる」

「……」

「……どうした?やっぱ、混乱してるよな」


混乱、どころの話ではない。

正直言って、脳のキャパシティをとっくにオーバーしている。


バクバクと大きな音を立てる心臓を必死に落ち着かせて、情報を整理する。


(今の話を聞く限り……私の『前世』と、陽向の『前世』は繋がっていて……しかも、会ったことがある、だなんて)


なんとかして思い出そうと頭をフル回転したものの、その記憶にたどり着くことはできなかった。


(おそらくだけど……当時の()は、レイン王子しか目に入ってなかったんだろうな)


恋は盲目、とはよく言ったものだな……と、私はひとつ溜息をついた。


「……ちょっと、まだ頭の中が整理できてないんだけど……どうして、『前世』の話を私に?」


率直な疑問だった。

陽向の意図を知るには、直接尋ねるのが一番手っ取り早い。


「……やっぱ、そーなるよな」


そう言って、大きく息を吐いた陽向は体勢を整え、私の目を真っ直ぐに見つめる。


その真剣な眼差しに、思わず身体が硬直した。


「……俺、さっきおまえに告白したよな」

「え?……うん」


……確かに、告白していたが。


(一体、それと『前世』に何の関係が……?)


「『()()()()()()』、って言ったはずだ」

「……!!」


(……まさか、)


ーー……俺は、おまえのことが……夏芽のことが、好きだ。……()()()()()()


「その『()』って、もしかして……」


確信に近い、一つの可能性が思い浮かぶ。


「……俺は、生まれたときから『前世』の記憶があったわけじゃない。思い出すきっかけになったのは、」


そこで、一呼吸置いた後、


「夏芽。……おまえに出会って、おまえのその、()()()を見たからだよ」


と、陽向は告げた。

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