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「あの二人がどうかしたの?」
「その……どの競技も順調に勝ち進んでるみたいで」
「へぇ、そうなんだ!さすがだね」
バレーボールと野球は観戦していたのだが、それ以外の競技については、大会の運営業務に追われ確認できていなかったのだ。
「だから、非常に言いづらいんだけど……」
「?」
「……二人が担うはずだった仕事を、僕たちで手分けしてやらないといけないんだ」
「!」
「が、頑張ろう!」
「……な、」
なんですってー!?という魂の叫びが、天井にこだました。
その後の記憶は、曖昧だ。
生徒たちがスポーツで青春の汗をかいている傍ら、私は休憩をとる間もなく汗水を流しながら仕事に忙殺されていた。
そして、夕方。
「やっと、表彰式……」
丸一日を費やした球技大会が終わり、表彰式の時間となった。
「白雪さん、お疲れ様。これで最後だよ」
雨宮くんもかなりの量の業務をこなしていたはずだが、疲れをほとんど感じさせない立ち振る舞いだ。
(……この人の身体、どうなっているんだろう)
そんな疑問をよそに、雨宮くんはトロフィーを持って表彰台に上がっていく。
結果として、私たちのクラスが総合優勝し、二位は東雲さんのクラスとなった。
三年生を差し置いて……という意見もごもっともだが、それほどまでにあの二人の力が抜きん出ていたということだろう。
私たちのクラスの代表は陽向が、東雲さんのクラスの代表は東雲さんが務めるようだ。
二人が前に出て、それぞれ雨宮くんからトロフィーを受け取る。
「おめでとう」
二人は返事をする代わりに、雨宮くんに向かって深々と礼をした。
その姿に、会場からは惜しみない拍手が送られる。
私も、雨宮くんの背後から二人に拍手を送った。
(それにしても……まさか、本当にやり遂げるとはね……)
そう。私たちのクラスが優勝したのは、
ーー俺、絶対優勝するから!野球に限らず、どの競技でも!
と、宣言していた陽向が有言実行したから。といっても過言ではない。
陽向は、出場した三種目全てにおいて、見事優勝を飾ったのである。
あとは、雨宮くんが卓球でベスト4に入ったことも、良いポイントになったらしい。
ちなみに、東雲さんはバレーボールでは優勝したものの、他の二種目は準優勝に終わったそうだ。それでも十分すごいことだと思うが。
ーー……話したいことがあるから、聞いてほしい。
逆転勝ちした野球の試合後、陽向が私に放った言葉を思い出す。
(そうだ。出場する種目全部で優勝出来たら話を聞く約束だったっけ。……話したいことって、一体何だろう……)
ふと、表彰台の上から視線を感じた。
表彰台を見上げると、陽向が私に向けて何かを訴えかけるような、強い眼差しを送っていた。
射抜かれた私は、思わずゴクリと唾を飲む。
拍手が鳴り止むと、雨宮くん、陽向、東雲さんの三人が表彰台を下り、そのまま表彰式は終了。
こうして、球技大会は幕を閉じた。
……のだが、私は陽向の眼差しが頭にこびりついて忘れられず、撤収作業をしている間も妙に胸がざわざわしていた。
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球技大会の片付けが一段落した頃、
「うわ、もう真っ暗だ……」
窓から外を見ると、すっかり日は暮れ、空には月が昇っていた。
「白雪さん、こんな時間までお疲れ様。手伝ってくれてありがとう」
「雨宮くんこそ……」
相変わらず涼しい顔をしながら、淡々と作業をしている雨宮くん。
「僕はまだやることがあるから残るけど、白雪さんはもう帰っても大丈夫だよ」
「……本当に、いいの?」
「うん」
陽向と東雲さんも最初は一緒に片付けをしていたのだが、クラスの子たちに半ば強制的に連れ去られ、今日の打ち上げを行っているようだ。
(まあ、二人は各クラスのMVPだろうから仕方ないとはいえ、また雨宮くんと二人で作業することになるなんて……)
大会の運営と同様に、本来は四人分の片付けを二人で行ったため、夜遅い時間まで残る羽目になったのだ。
スマホを確認すると、ちょうど8時を回ったところだった。
と同時に、何か通知がきていることに気がついた。
(……陽向からだ)
メールを確認すると、
『今夜9時に、俺ん家来て。そこで話すから』
とだけ書かれていた。
「あ……」
「白雪さん?」
「……ごめん。陽向から呼び出されちゃったから、お言葉に甘えて帰らせてもらうね」
「了解です。……どうか、気をつけて」
「……うん。雨宮くんも、気をつけて帰ってね」
雨宮くんを一人残して帰ることに申し訳なさを感じながらも、陽向からの呼び出しに応じるため、急いで帰路を辿った。




