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昇降口で靴を履き、グラウンドへ行こうとしたその時、カキーン!という鋭い金属音が響いた。
(おっ、ちょうどやってるな)
私はそのまま音がした方向へと足を向けた。
グラウンドに着くと、
「春斗!かっとばせー!」
「あいつに続け!」
「チャンスだぞ!」
わーわーと男子たちがバッターに声を投げかけている。
どうやら次のバッターは陽向らしい。
バッターボックスをチラッと見ると、陽向が珍しく緊張した面持ちでバットを構えていた。
(……陽向、らしくないな)
得点板を確認すると、2-3で陽向たちのチームが相手にリードを許している展開だった。
(ランナーは2塁……なるほど、ここで陽向が一発ヒットすれば逆転も考えられる)
先ほど聴こえた音は、前のバッターが放ったものだったのだろう。
そして、何よりも気がかりなのが、
(9回裏かぁ……)
この回で点を取らなければ、陽向たちの負けが決まってしまうという重大な場面なのだ。
(だから、陽向はあんなに緊張してるのね)
なんとなくだが、陽向のフォームが少しぎこちない気がする。変に力が入っているような。
「ストライク!」
陽向がブンッ!と勢いよくバットを振るも、ピッチャーが投げた球の方がワンテンポはやくミットの中へと吸い込まれていった。
その後もファールやボールが続く。
(……やっぱり、陽向は本来の力を出せてない気がする)
本物の野球部が相手なら仕方ないが、今は球技大会だ。なので、投手も野球部ではない一般の生徒である。
決して力の差があるわけではない、はずなのに。
9回裏、ここで点を取らなければ負け。という危機的状況に、プレッシャーが押し寄せているのだろう。力んでしまうのも無理はない。
(なんとかしないと)
そう思った私は、大きく息を吸って、
「陽向!ファイトー!」
バッターボックスに届くよう精一杯声を上げた。
すると、気づいた陽向がこちらに振り向き、いつもの笑顔でピースサインを送ってきた。
(よかった。……いつも通りの、陽向だ)
「ーー……」
「……?」
陽向が口をパクパクと動かしているが、何を伝えようとしているのかはわからなかった。
何かを言い終え、くるっと元の立ち位置に戻った陽向は、フォームを構え直す。
そして、
カキーン!
「!」
わあっと歓声が上がった。
空に向かって高く上がった打球は綺麗な放物線を描き、外野の守備位置からズレた場所へと落ちていった。
「ホームランだ!」
グラウンドにはフェンスがないのでわかりにくいが、打球はホームランのラインを越えたたようだった。
(陽向、すごい……!)
「逆転サヨナラ勝ちじゃん!」
「やったぜ!」
「さすが春斗だな!」
ホームベースまで走り切った陽向を、チームメイトたちが取り囲んだ。
勝つ瞬間を見ることができて満足した私は、そのまま立ち去ろうとした。
その時、
「夏芽!」
こちらに走ってきた陽向に呼び止められたので、思わず足を止めた。
「俺、絶対優勝するから!野球に限らず、どの競技でも!そしたら……」
そこで一旦言葉が途切れる。
「……話したいことがあるから、聞いてほしい」
「……わかった」
いつになく真剣な顔をした陽向に戸惑いつつも、了承した。
「約束!だからな!」
念を押した陽向が、わらわらと集まっているチームメイトたちの元へ戻っていった。
(いくら陽向とはいえど、出場する全ての競技で優勝するのはさすがに難しいだろうな……)
そう、思っていた。
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その後、私は雨宮くんと合流し、各競技の進捗について報告していた。
「……以上で、報告は終わりです」
「うん。ありがとう」
「……そういえば、雨宮くんは卓球、どうだったの?」
私が卓球の会場を去ろうとした時も、雨宮くんはまだ試合を行っていたのだ。
「あぁ、準決勝まではいったんだけどね。そこで負けてしまったよ」
「そ、そうなんだ……」
思っていた以上に勝ち進んでいたので驚いてしまった。
(雨宮くん、運動もそこそここなせるんだなぁ……)
確かレイン王子も、良い剣の使い手として評判だったな。と思い出したところで首を振り、頭をリセットする。
「……ところで、陽向くんと東雲さんのことなんだけど」




