28
サプライズ歓迎会後の休日明け、
「あれ?夏芽、その髪……」
「あぁ、結局縛るのやめようと思って」
サラサラと流れる黒髪に指を通す。
前世の記憶を取り戻す前の、ボサボサで傷んでいた髪は見る影もなくなっていた。
ここまで回復すれば、わざわざ髪を縛る必要もないだろうと考えたのだ。
(それに、)
ーーいつもの縛ってるのよりも、下ろしてる方が可愛いわ。
東雲さんに、キラキラと羨望の眼差しを向けられたことを思い出す。
(……褒められて、悪い気はしなかったからね)
若干照れくさくなった気持ちを、長い髪で覆い隠すように靡かせた。
「……俺も、」
「ん?」
「俺も、その髪型……いいと、思うぞ」
陽向はそう言って頬を赤らめ、指でポリポリと顔をかいた。
「そう?ありがと」
「……おう」
そんな私たちの姿を、少し離れた場所から眺めている美形の男子がいたが、私たちが彼に気づくことはなかった。
「……」
~~~~~
季節は、秋も終わりが近づく11月に入った。
そんな時期に行われるイベントといえば、
「もうすぐ球技大会かぁ……」
そう。球技大会である。
お世辞にも運動が得意とは言い難い私にとっては、正直苦痛だ。
前世で培った護身術は、球技とは無縁であるためあまり役に立たないのだ。
それに、生徒会を中心に運営も行わなければいけないので、今はその準備でてんやわんやしている。
私が生徒会に加入してから初めての大型行事ともあって、慣れない業務に追われる毎日を過ごしていた。
「うぅっ、まさかここまで大変だとは……」
「夏芽さん!次はこれお願い!」
「はい……」
弱音を吐いている間にも、東雲さんから新たな書類を手渡される。
東雲さんや陽向は、生徒会業務の傍ら球技大会の練習もこなしているため、私よりも倍以上忙しくしていた。
二人は学年の中でもトップクラスに運動ができると評判なので、各競技から引っ張りだこだった。
~~~~~
「東雲さんっ!是非うちのバレーボールに……!」
「いやいや、ここは私たちバスケが……!」
「あはは……ちょっと、落ち着こうか……」
「陽向!俺たちと一緒に野球やらねーか?」
「はあ?春斗は俺らとドッジボールするって決まってるし!」
「いや〜……どう、だろうな……」
~~~~~
あの時の二人の苦笑いは、今でも忘れられない。
(いつも明るくて元気の塊のような二人が、あそこまでたじろいでいるところは初めて見たな……)
手を動かしながら、ぼんやりとそんなことを考える。
ちなみに私は、卓球に出場する予定だ。雨宮くんも、私と同じで卓球になった。
卓球は個人競技なので、他の競技よりも比較的緩いという利点がある。
団体競技なんて出たら、みんなの足を引っ張るのが目に見えていたから、ちょうどよかった。
「白雪さん、一緒に頑張ろうね」……なんて、雨宮くんは言っていたけど。
(はやく球技大会終わってくれないかな〜……)
と心の中でボヤきつつ、いつの間にか机に積み上げられた書類を片付けていった。
~~~~~
時は流れ、球技大会当日。
予想はしていたが、初戦で敗退した私は他の競技の見回りをしていた。
生徒会の業務を兼ねてもいるが、他の生徒会メンバーの活躍を見てみたいという目的もあった。
この学校の球技大会は、一人一種目は出場厳守となっているが、上限はない。
そのため、複数の種目を掛け持ちすることが可能である。
この規則を利用し、……いや、利用させられたと言うべきなのか……東雲さんと陽向は各種目に駆り出されていた。
人間の体力には限界があるので、全てに出場することは出来なかったようだが、各々三種目に絞って出場するようだ。
(まずは……)
そっと体育館の中を覗いてみると、
「東雲さん!お願い!」
「任せて……っ!」
バシッと軽快な音が響き、そのままボールは床へと吸い込まれていった。
「やった!」
「さすが東雲さん!」
東雲さんがチームメイトとハイタッチを交わしていた。
(東雲さんのバレーボールを見に来たけど……さっきのスパイク、勢いが凄まじかったな…)
このまま決勝までいきそうだな。と考えていたとき、東雲さんが私に気づいたのか、こっちに向かってブンブン手を振ってきた。
(……絡まれると面倒だし、次のところ見に行くか)
小さく手を振り返すと、体育館を後にして次の目的地へと足を踏み出した。




