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雨宮くんのことで悶々としていたところに、陽向が声をかけてきた。
「ところでさ、夏芽」
「何?陽向」
「その服……今朝見たのと全然違うよな?どうしたんだ?」
「あぁ、これね」
東雲さんのバイト先のお店であった出来事をかいつまんで説明した。
「そうだったのか……」
「あんまりこういうタイプの服着たことなかったんだけど……どう、かな?」
チラリと陽向の反応を伺ってみると、
「ま、まあ?似合ってる……んじゃねーか?」
「そう?……それなら、いいんだけど」
少し照れくさそうに頭をかいた陽向の顔が、みるみるうちに赤く染まっていく。
まるで、彼の燃えるような目の色と同じように。
「うん。僕もその服装、いいと思うよ」
背後から聞こえたその声に振り返ると、雨宮くんが柔らかな笑みを浮かべていた。
……なんだか、妙にこそばゆくなった私は、
「あ、ありがとう……」
感謝を伝えるも語尾がしりすぼんでしまい、雨宮くんから目を背けた。
そんな私たちの姿を見た東雲さんは、「フフン」と何故か誇らしげに胸を張っていた。
(……服を選んでくれたのは、店長さん、だよね?)
内心ではそう思いつつも、彼女を怒らせてはいけないと先ほど学んだので、口には出さないよう注意した。
「……っと、もう時間だね。お腹も空いたし、お店入っちゃおうか」
「そうだな」
時間を確認すると、ちょうど13時を回った頃だった。
「すみませーん!予約している東雲ですけど」
おもむろにお店のドアを開けた東雲さんが、中にいる店員にそう呼びかけた。
(……ん?予約?)
私は首を傾げたが、雨宮くんも陽向も特に変わった様子はない。
ーーそ、それは、その……まあ、行けば分かるから!
(なるほど。元々予約していたお店なら、場所を知っていても不思議じゃないよね。でも、)
それくらいであれば、わざわざ隠さずに話してくれてもよかったと思うのだが。
(……一体、何のために?)
思案していると、呼びかけに応じた店員さんがかけつけてきた。
「ご予約の東雲様ですね。お待ちしておりました。こちらへどうぞ」
店員さんに促され、お店の中に入ると、
「わぁ……」
少しノスタルジックな、趣のある雰囲気の内装だった。
「どうどう?この店、いいでしょ?」
東雲さんが私の耳に口を寄せる。
「うん……こういうの、好きかも」
「ふふっ、気に入ってもらえたならよかった」
そして、案内されたのは、お店の奥の方にある個室だった。
(何故に、個室?)
また新たな疑問が浮かぶも、
「さあさあ!座って座って!」
考える隙を与えないかのように、私の肩を掴んだ東雲さんがそのまま席へ誘導する。
私の隣には東雲さんが座り、向かいには陽向、斜め向かいには雨宮くんが座った。
「ねぇ、これってどういうこと?なんでわざわざ個室なんて……」
「あー……ほら、個室の方が周りを気にせずにゆっくり食べられるから……ね!陽向くん!」
「お、おう!そうだよな!雨宮!」
「うん、そうだね」
あたふたしている東雲さんと陽向を、まるで保護者のような温かい目で見つめる雨宮くん。
(うーん、怪しい……)
おそらく、この個室は私に何か隠し事をしている理由のヒントなのだろう。
個室を利用する理由としては、一般的には何かしらのイベントをするときや、ある程度騒いでも周りの客に迷惑がかからないようにするためなどが考えられる。
(イベント……?)
ーーそれに、まだ夏芽さんが生徒会に入ってから歓迎会もしてないよね。それも兼ねて、どうかな……?もちろん、会長と陽向くんも誘って、だけど。
(……もしかして、)
私はてっきり、生徒会のメンバーと一緒に買い物をすることが、歓迎会の意味も含んでいるのだと思っていた。
もし、その考えが誤りだとしたら。
「あの、東雲さん。これってーー」
「お待たせいたしました!ご注文のケーキでございます」
私の言葉を遮るように、店員さんが立派なホールケーキを持って入ってきた。
「うわぁ……!」
四人同時に、感嘆の声を上げる。
テーブルの中央に置かれたケーキをよく見ると、チョコプレートにメッセージが書かれていた。
「『夏芽さん 生徒会へ ようこそ』……?」
「じゃじゃーん!サプライズのケーキです!」
「少し遅れちまってごめんだけど、」
「白雪さん、生徒会に入ってくれてありがとう。歓迎するよ」
私以外の三人が、見事な連携で言葉を紡いだ。
(やっぱり、ちゃんと歓迎会もしてくれるんだ……!)
胸にじわりと温かいものが広がっていくのを感じる。
「……だから、隠してたんだね」
「あはは、どうしてもサプライズにしたくて」
「うまくいってよかったなー」
東雲さんと陽向が「イェーイ!」とハイタッチした。
「……水を差すようで悪いんだけど、このケーキ、思ったよりも大きいんだね……?」
雨宮くんが冷静に指摘した。
確かに、四人で食べるには少し大きすぎるような気がする。
「だいじょーぶ!食べ切れなかったら、私が持ち帰るから。許可はいただいているので!」
東雲さんがビシッ!と親指を立てた。
「これでしばらく食には困らないわ……!」と小声で呟いたのが耳に入ってきた。
(ちゃっかりしてるなぁ……)
「それなら、問題ないね」
雨宮くんはほっとした表情を浮かべた。
「はい!それでは、夏芽さんの生徒会入りを祝して、」
「いただきます!」
そうして、四人で食べたケーキはちょっぴり甘酸っぱい味がした。




