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「あれ、どうしましょう……」
「うーん……」
東雲さんは見るからに不機嫌そうだ。
先ほど、自分がナンパされていたときより何倍も怒っているように見える。
(そりゃそうだよね。自分の好きな人が、他の女の人にチヤホヤされているのは嫌に決まってる)
とりあえず、そろりそろりと少しずつ距離を詰めていく。
(向こうも、こっちに気づいてくれるといいんだけど)
近づくにつれ、二人に絡んでる女の子たちの話し声が段々と大きくなってくる。
「あの、あたしたちもここでランチしようと思ってるんですけど〜」
「よかったら、一緒にどうですか〜?」
まるで身体にまとわりつくかのような、甘ったるい声だ。
私が話しかけられているわけではないのに、何故か背筋がぞわぞわする。
直接声を浴びている側は、たまったもんじゃないだろう。
「あー……実は俺たち、ここで待ち合わせしてるんだよ。な?」
「うん。そうなんだ。だから、ごめんね」
二人なりに、この状況をなんとか収めようとしているようだ。
(ひとまずこれなら安心……かな?)
「え〜?それって、彼女だったり〜?」
「!」
「……」
『彼女』という言葉に対し、明らかに動揺する陽向と、眉一つ動かさずにいる雨宮くん。
(ど、どうしよう……咄嗟に駆けつけて助けるのもありかなと思ってたけど、もっとはやく決断すべきだった。今出ていくのは逆効果な気がする……)
額にじわりと汗が滲む。
そういえば東雲さんは?と思い、彼女の様子を伺ってみると、
「……」
ゴゴゴゴゴ……と効果音がつきそうなくらいの凄まじいオーラを放っている。
表情はギリギリ保っているものの、額には青筋が浮き出そうなくらい力が入っているような。
(……今後、この人を怒らせないように気をつけよう)
と、心の中で固く決意した。
そして、我慢の限界がきたのか、東雲さんが彼らの間に割って入ろうと一歩を踏み出した。……のを、なんとか押しとどめる。
「東雲さん!このタイミングで出てしまうと色々とややこしくなりそうなので、ここは抑えてください……!」
小声で彼女に話しかける。
「いーえ、もう我慢ならないわ。……大丈夫、なるべく穏便に済ませるよう努力するから」
(そんな、穏便とはかけ離れた態度で言われても……!)
東雲さんは私よりも体力があるので、力負けするのは時間の問題だった。
もはや絶対絶命。と思った瞬間、雨宮くんと目が合ったような気がした。
(!……もしかして、気づいてくれた?)
すると、雨宮くんは口角を上げてこう告げた。
「彼女ではないよ。残念ながら、ね」
「!」
その言葉に、女の子たちだけではなく、陽向も、東雲さんも、……私も、反応した。
「な〜んだ。彼女じゃないんだ」
「それなら、あたしたちと一緒でも問題ないよね?」
これはイケるぞ、と感じた女の子たちがグイグイ攻めてくる。
だがしかし、雨宮くんはなおもこう続けた。
「彼女では、ないけど。……いつか、彼女になったらいいな、とは思ってる」
「!!」
思ってもいなかったセリフに、その場にいた誰もが衝撃を受け、硬直した。
(え?え?一体どういうことなの……!?)
頭の中が疑問符で埋めつくされていく。
「だから、もう一度言うけど。……ごめんね。君たちの期待には応えられないんだ」
眉を下げた雨宮くんがそう告げると、
「そっか〜……」
「なら、しょうがないよね〜…」
諦めがついた女の子たちは、その場を去っていった。
女の子たちがいなくなったところで、二人と合流した。
「……もー、二人して何逆ナンされてるんですか」
そう言って、ムスッとする東雲さん。
「おまえら、見てたのかよ!?」
「はい。バッチリ見てましたー」
「はは、ごめんごめん」
「俺だってこんなことになるとは思ってなかったよ……あーびっくりした……」
雨宮くんは普通に振る舞っているが、陽向はどっと疲れた様子だ。
(……ん?)
「ねぇ、雨宮くん」
「何?白雪さん」
「もしかして、よくあるの?……今みたいなの」
「あぁ……まあ、ね」
はは、と雨宮くんは少し困ったような顔をした。
(ですよね……)
雨宮くんも東雲さんと同様に、度々遭遇しているということであれば、先ほどの対応も頷ける。
……いや、ちょっと待てよ。
「そういえば、あの……さっき言ってたこと、って」
「あぁ、聞こえてたんだ。……彼女がどうの、ってやつだよね?」
「……はい。そうです、けど」
「……あれは、気にしないで。あの場を凌ぐには、ああ言うしかないと思って言っただけだから」
「……そう、ですか」
やっぱり、女の子たちを退けるための方便だったのか。と安堵している自分と、……ほんの少しだけ、複雑な想いを抱いた自分がいた。
ブクマや評価がじわじわ増えてきていることに喜びを噛み締めている毎日です。
まだまだ未熟ですが、ここまで読んでくださりありがとうございます!




