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「ん?夏芽さん、着替え終わった?」
私の声が聞こえたのか、東雲さんが尋ねてきた。
「あ、はい。終わりました。けど……」
「じゃあ、カーテン開けてもいいかな?いいよね?」
「ま、待って!まだ心の準備がーー」
必死に制止するもその思いは届かず、無情にもカーテンは開かれた。
「さて、どんな仕上がりになったのかな?って……」
着替えた私の姿を確認した東雲さんは、開けた口を塞ぐことなくポカンとした顔でこちらを見つめる。
「……」
「……あの。どうかしましたか……?」
恐る恐る聞いてみるも、東雲さんは固まったまま微動だにしない。
(どうしよう……困ったな)
この状況をどうしたものか。とオロオロしていると、ひょこっと店長さんが顔を出した。
「あぁ、着替え終わったんだね。……うん。やっぱりそれ、よく似合ってる」
「!」
店長さんはとても満足そうにニカッと笑う。
「秋菜ちゃんもそう思うよね?……って、この子ったら、お嬢さんがあまりにも素敵だから、すっかり見惚れちゃってるよ」
「え……?」
「ほら!見惚れてないでお嬢さんに何か言ってあげなさい」
ポン、と店長さんが東雲さんの肩を叩く。
すると、我に返った東雲さんは「ハッ」と息を漏らした。
「夏芽さん……」
「……」
「……すっごく、素敵だわ」
そう告げた彼女は、「はぁ……」と蕩けるような声を出した。
その目は潤んでおり、うっとりと私を見つめている。
そんな彼女の姿を見た店長さんは、ふふんと自慢げに胸を張った。
店長さんが私に差し出した服。
それは、細やかな装飾が施された白いブラウスと、裾にフリルがついた淡い水色のロングスカート、それらを覆い尽くす程の長さがある藍色のカーディガンだった。
「まさに、夏芽さんのために誂えたかのような服ね……」
「だろう?さっきまでのカジュアルな服装も悪くないと思うんだけど、こういう清楚なコーデも合ってるんじゃないか?って思ってさ」
「なるほど……さすがです!店長」
「いやぁ、でも本当にここまで似合っているとはねぇ。これだとお嬢さんじゃなくて、『お嬢様』って呼びたくなっちゃうわ」
その店長さんの言葉に思わずドキリとしてしまう。
(このコーディネート、前世の私の好みにバッチリ当てはまってるんだよね……店長さん、恐るべし)
白いブラウスはしょっちゅう着ていたし、水色や藍色も私服やドレスによく取り入れていたのだ。
(前世の私ならともかく、)
「あの、本当に、この服私に合ってますか……?」
確かめるように、二人に問いかける。
すると二人は、私の問いかけに対しキョトンと揃って首を傾げた。
「何言ってるの。とっても似合ってるわよ」
「そうよ夏芽さん。もっと自信持って!」
「そ、そうですか……」
二人の有無を言わさぬ物言いに、私は退くことしか出来なかった。
(……私が、こういうの着ても大丈夫、なんだ)
改めて、試着室の鏡に映る自分を見てみる。
鏡の中の私が、少し微笑んだ気がした。
「店長さん」
「なあに?」
「……素敵な服を選んでくださり、ありがとう、ございます」
感謝の辞を述べた私は、店長さんに深々と頭を下げた。
「いいのよ、これくらい。お客様に合った服を見つけ出すのが、私の仕事なんだから。……何はともあれ、喜んでくれたようでよかったわ」
胸に沁みるような、優しい声色だった。
「店長!この服一式、夏芽さんにプレゼントしたいから私、買うわ!」
「おっ!毎度あり〜」
「!?」
(いやいやいや!買うとなるとまた別の話で……!)
「東雲さん!私の服だし私が買うから、何も貴女が買わなくても、」
「なーに?私が買えないとでも思ってるワケ?」
図星だ。
……以前、陽向に聞いた家の事情が気になった、から。
「だいじょーぶ。今日の予算内に収まるし、私が夏芽さんにプレゼントしたいと思ったから。なんたって、今日の主役は夏芽さんだもの。ね?」
「う……わ、わかりました。ありがとうございます」
彼女が大丈夫というのなら、きっと大丈夫なんだろう。と信じ、今回はお言葉に甘えることにした。
「じゃあ、服装はそのままで行こっか!店長、タグ切るのお願いします」
「はいよ〜」
「え?は?え?」
呆気にとられていると、あれよあれよという間に事は進み、元々着ていた服は丁寧に畳まれ袋に入れられた。
「はい、どうぞ。この後も楽しんできてね。またこっちにも遊びにいらっしゃい」
「はは……ありがとうございます」
「店長、また今度バイトで!夏芽さん、次行こ、次!」
袋を受け取り、店長さんに別れを告げて二人でお店を後にした。




