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そして、生徒会メンバーで歓迎会を兼ねた買い物に行く日がきた。
天候に恵まれ、雲ひとつない快晴である。
学校のない休日。
こういう休みの日に同級生と会うなんて、友達がいなかった私にとってはほぼ初めてと言っても過言ではない。
なので、
「どうしよう……何を着ていけばいいのかさっぱりわからない……」
いざ着替えようとした時、東雲さんの提案を受け入れたことを激しく後悔していた。
プライベート用の私服なんて、数えられる程度しか持ち合わせていない。
さらに、一人で出歩くことしか想定していなかったので、人様に見られても大丈夫かどうかを全く考慮していなかったのだ。
だがしかし、こうやって考えている間にも、刻々と約束の時間が迫ってきていた。
「……仕方ない。とりあえず今あるもので大丈夫そうなのを着るしかない、か」
制服を着ることも考えたが、もし汚してしまったら後で洗うのが大変だろう。と判断し、やめることにした。
比較的マシな服を見繕いそのまま着替えると、大分いい時間になっていたので慌てて家を出た。
(メイクは最低限出来たけど、髪縛る時間なかったな……まあ、髪くらい大丈夫、だよね)
駆け足で駅に向かいながら、髪を触る。
日光で艷めく長い黒髪が、波打つように靡いていた。
~~~~~
「はよー」
「陽向くん、おはよう」
「おはよー」
「雨宮も副会長も早いなー……夏芽は、まだか」
「うん。夏芽さんはまだ来てないよ」
陽向が待ち合わせ場所に着くと、そこにはすでに雨宮くんと東雲さんが並んでいた。
「僕はさっき着いたところなんだけど、もう東雲さんがいたから驚いたよ」
「今日が楽しみすぎて昨夜は全然眠れなくて……えへへ」
「なんだ、それ」
ははは、と陽向が笑い、三人の間に和やかな空気が流れる。
「ところで二人とも、夏芽さんにはあのこと、言ってないよね?」
「おう!言ってねーよ」
「もちろん、僕も」
三人は顔を見合わせ、お互い確認するかのように頷いた。
「オッケー。あとで私がうまく誘導するから、よろしくね」
「任せて」
「任せな!」
男子二人がほぼ同時に返事した頃、
「ごめんごめん……遅く、なって……」
はぁはぁと息切れしつつも、なんとか待ち合わせの場所に到着した。
「あ!夏芽さん!おはよー」
「夏芽、はよー」
「白雪さん、おはよう」
三人が私に向かって挨拶をする。
「夏芽、おまえ……」
「……何?陽向」
「制服だと思ってたのに……私服、なんだな」
「……」
(制服着てこなくてよかった……)
と、心からそう思った。
「いや、だってよ、あんまり外出してるイメージなかったからさ、私服が想像できなかったっていうか……」
しどろもどろに言葉を重ねる陽向。
その視線は定まらず、ゆらゆらと揺れている。
心なしか、顔がほんのり赤く染まっているように見えるのは気のせいだろうか。
「それよりも!夏芽さん、髪下ろしてる……!」
そこに東雲さんが口を挟む。
「え?あぁ、これは、」
(時間ギリギリで準備が出来ませんでした。なんて、言いづらいな……)
すると、東雲さんはズイッとこちらに近づき、
「……良い!良いよ夏芽さん!すごく良いと思う!」
「!?」
唐突に両手を掴まれ、胸の前まで持っていかれる。
「いつもの縛ってるのよりも、下ろしてる方が可愛いわ」
「か、かわ、いい……?わたし、が?」
耳慣れないセリフに戸惑う。
(今目の前にいるこの人の方が、よっぽど綺麗で可愛いのでは?)
頭の中を『?』が飛び交っている。
「前々から髪は下ろした方が良いと思ってたんだけど、想像以上だわ……!」
「そ、そうですか……」
「私服……も、悪くはないんだけど、もっと似合うのがあるはず。今日は色々見てあげるからね!」
グイグイくる彼女にどうすることもできず、少し離れたところから眺めている雨宮くんに視線を送る。
(助けて……!)
雨宮くんは目を見開いていて驚いたような表情だったが、私の視線に気づいたのか、ニッコリと微笑んだ。
「……僕も、そっちの白雪さんの方が、すきかな」
「!」
どうやら、雨宮くんは私の意図を汲み取ってくれなかったらしい。
諦めて陽向の方に視線を送るも、陽向がそっぽを向いていて目を合わせることができなかった。
(先行きが不安でしかない……)
こうして、波乱万丈な一日が幕を開けたのだった。




